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無名のAV女優が5年間で1000本のビデオに出演するトップ女優になった話《キカタン日記 上原亜衣》

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kai-you.net

2015年11月17日(火)、アダルトビデオのファン感謝祭『Japan Adult Expo(JAE)』で、AV女優の上原亜衣さんが引退を発表した。

多くのAV女優が1桁もしくは2桁の出演数で引退するのに対して、上原さんは5年間の活動で約1000本以上のビデオに出演した。

単純計算で年間約200本の作品に出演していたことになる。丈夫な身体と強い精神力を持ち合わせていないとこれだけ多くの作品に出演することはできないだろう。

上原さんといえば、『DMMアダルトアワード2014』で最優秀女優賞を受賞したのは有名な話だ。これはDMM.comが運営する日本最大級のアワードで、数多くの有名なAV女優が参加するビッグイベントだ。

ここで特筆すべきなのは、S級女優の証である『単体女優』ではなく、上原さんが『企画女優』だったにもかかわらずグランプリをとったことだ。

そもそも、AV女優というのは2つの階級がある。ひとつが『企画女優』もうひとつが『単体女優』だ。

 

単体女優とは、AVメーカーと専属契約を結び、一人で(単体)でAVの作品に出られる女優のこと。メーカーのバックアップの下、デビューから盛大なプロモーションが行われる"S級"の女優です。なりたくても、簡単になれるものではありません。実際、単体女優としてデビューできるのは、ほんの一握りです。
それ以外の大勢は企画女優。1本の作品に多数の女優が出演するオムニバス作品(複数の女優が出演する作品)も多い、素人ナンパもののAVや、乱交もの、SM系の凌辱ものなどの企画作品に出演する女優です。
そんな企画女優の中で、単体で作品に出演できる女優は「企画"単体女優」、通称・キカタンと呼ばれています。

 

上原さんは『企画女優』としてデビューし、のちに一人で作品にでる機会が増え『キカタン』と呼ばれるようになった。

そんな彼女が『単体女優』らを追い抜き、日本一のAV女優となったのだ。高校野球でいうと、まったくの無名高校が甲子園でいきなり優勝するみたいな感じだろう(たぶん)

 

 

上原さんがAVにデビューしたのは19歳のとき。保育士を目指して短大に通っていたときのことだ。きっかけは知人からの紹介で、『企画女優』としてデビューすることになった。

もともとAVの仕事は大学を卒業するまでのバイトだと決めており、この仕事に対して強い思い入れがあったわけではない。が、しかし、ある人物の登場によって彼女の運命は大きく変わることになる。

AV女優としてデビューし、半年たったときのことだ。上原さんの所属する事務所に大型新人が入ってきた。彼女の名前は小島みなみ。いまも現役で活躍する売れっ子AV女優だ。

彼女は上原さんとは違い『単体女優』としてデビュー。つまり、事務所一押しの女優ということだ。後輩が華々しくデビューしたことで、負けん気の強い上原さんに火がつき、その日から彼女に負けないためにあらゆる努力をしはじめる。

『単体女優』は『企画女優』に比べギャラも多く、S級女優の証でもあるが、ひとつだけ欠点がある。

それは、決まった本数しか出演することができないということだ。ひとつのメーカーと専属契約をするため、月に一本しか出演することができない。

そこで上原さんは小島みなみをはじめとする『単体女優』に勝つためにあるひとつの大きな決断をする。

 

それは「あらゆる作品に出ること」だった。

 

AV業界には「NG事項」というものが存在する。レイプNG、レズNG、縛りNGなど、自分のやりたくないジャンルはNGを出せる。しかし、NGが多ければ、作品に出演できる機会が減ってしまう。

ゆえに上原さんはNG項目を減らし、自分に来た仕事は断らないというスタンスで挑むことになったのだ。

しかし、それだけでは『単体女優』との差を埋めることはできない。『単体女優』と『企画女優』にはそれほど大きな差があるのだ。

そもそも彼女はデビューするとき、AV女優として恵まれた身体の持ち主ではなかった。歯並びは悪く(現在は矯正済み)、バストはCカップ、スタイルも決していいわけではなかった。

そこで自分にしかない武器を身につけようと思い立ち、あるジャンルに挑戦しようとする。

 

今さら容姿は変えようもないので、私は見る人がビックリするような「性戯」を極めようと思いました。それなら努力次第で、なんとかなりそうだったので...。
そこで狙いをつけたのが、「潮吹き」でした。当時の私は、あらゆるAVを見て研究していたので、潮吹きブームがやって来そうな予感があったんです。

 

のちに「潮吹き」は彼女の代名詞となるのだが、この「潮吹き」をマスターするまでのプロセスがすごい。レンタルビデオ店であらゆる「潮吹き」と名のつく作品を借り、勉強。さらに毎日自分の身体で「潮吹き」の猛特訓。

この特訓により「潮吹き」を自由自在にあやつれるようになり、「潮吹き女王」という大きな肩書きを手にいれたわけだけど、彼女のストイックさを表すエピソードはこれだけではない。

デビューからしばらくして、ネット上で上原さんの整形疑惑が出たことがあった。とある掲示板にはこう書かれていた。「デビュー当時の写真と今の顔が違いすぎる」と。上原さんはこの疑惑を打ち消すためにあるジャンルの企画に出演する。

 

ちなみに、ネットでは"鼻がおかしい"なんて書き込みもありましたけど、何も入れてませんよ(笑)。その証拠に、私の出演するSM系作品を見てください。"鼻フック"をNGにしていないんです!鼻にフックをかけられて"ブタ鼻"にされるやつです。実はあれ、整形をしていたら、入れたシリコンがずれちゃうんですよ。あえて「鼻フック」に挑んでいたのは、整形疑惑を払拭するためでもあったんです(笑)

 

いやもう「すげぇ」の一言に尽きる。 「そんな理由で鼻フックしたんかい」とおもわずツッコミを入れたくなる。

この業界は芸能界と同じで入れ替わりが激しい世界で、毎年のように女優さんが引退していく。周知の事実ではあるが、やっぱり身体的にも精神的にもハードな仕事なんだなぁと再認識させられた。

というのも上原さんも月に25回の撮影があったときは身体を壊していたからだ。

 

 

当時の私は月に25日ぐらい、撮影のスケジュールが入っていたんです。AV撮影のない日も撮影会や雑誌のインタビューなどがあるので、ほぼ年中無休状態。有名になるためなので、さほど苦とも思いませんでしたが、体はボロボロでしたね。毎日、ハードなSEXをしていれば、アソコも痛くなってきます。この頃は、撮影前にローションを3本分ほどアソコの中に仕込んでおくこともありました。ローションでたっぷり濡らしておかないと、痛くて仕方なかったんです。(中略)

そのうえ、撮影は早朝から深夜まで続くことが大半です。睡眠時間は1時間程度の日なんてザラでした。(中略)

喉の粘膜が傷ついて扁桃腺が腫れやすくなり、しばしば高熱が出るようになってしまったんです。ひどいときは、朝起きたら40度近い熱があって、現場にすら行けない。なんとか行けたとしても、現場で倒れてしまったりもしました。

 

まるでブラック企業に勤めているひとのスケジュールだ。とはいえ、それくらいストイックにやり続けないと、この世界で売れるにはむずかしいことなんだろうなぁとも思わされる。

このストイックな姿勢を貫いた結果、冒頭にも書いたとおり、『DMMアダルトアワード2014』で最優秀女優賞を受賞した。「テッペンとったし、さあこれから!」というときに上原さん自身にあるひとつの感情が芽生えた。

 

なんのためにAVに出るんだろう

 

持ち前の負けん気の強さとストイックな性格でここまで突き進んできた上原さんだったが、だんだん撮影に身が入らなくなってしまった。

そう、彼女は目標を見失ってしまったのだ。それはトップをとったことによる代償だったのかもしれない。こうして彼女は引退を決意し、2015年11月17日(火)に引退を発表した。

こうやってみると、「上原亜衣は超人だ!」と思うかもしれないが、どこにでもいるフツーな女の子の一面もあるし、この世界に身を置くならではの悩みもかかえている。

 

両親には、いまだにバレていません(と、自分では思っています)が、もし両親が、私がAV女優をしていたことを知ってしまったら...悲しむに決まっていますし、そのことを想像すると、やはり胸が苦しくなります。自ら選んだ道なので、私は何を言われようと構わないんですが、父や母、祖母、妹にも何かしらの形で迷惑がかかる可能性もあるのです。

いえ、それだけではありません。私にも結婚願望はあります。もし、私の過去を知ったうえで人生を共にしてくれるという男性が現れたなら、結婚もしたいし、子どもだって欲しいのが本音です。でも、その一方で、もし自分の子どもが私の過去を知ったら、そのときに、なんて説明するのかと聞かれると、答えに窮するのも事実です。黙っていてもいいけど、私がAV女優であったことは消せない過去です。どこから、どう伝わるか分かりません。自分の母が元AV女優だったら、子どもはどう思うでしょう。そんなことを考え始めると、やっぱり不安で仕方なくなるんですよね。(中略)

AV女優になって、得たものもたくさんありましたけど、失ったものも大きかった。そういった意味では、後悔がないと言ったら嘘になります。

 

上原さんはすでに友達バレも恋人バレ、どちらも経験している。しかし、家族には言っていない(妹には言っている)

AV女優の紗倉まなさんは、母親から自分の出演した作品のフィードバックをもらう間柄だが、これは特殊な家庭だろう。上原さんのように家族には秘密にしているケースが多く、AV女優がなかなか理解を得られない職業であるのもまた事実である。

 

本書はフォトエッセイで、文量もそんなに多くないからサクッと読める。また読みたい一冊だった。

 

 

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【#78】「ほしい未来」は自分の手でつくる(鈴木菜央)

【#88】ウェブはバカと暇人のもの(中川淳一郎)

【#99】ツイッターとフェイスブックそしてホリエモンの時代は終わった(梅崎健理)

【#134】5年後メディアは稼げるか(佐々木紀彦)

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【#176】中国メディアの現場は何を伝えようとしているか(柴静)

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【#121】広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門(谷口マサト)

ビジネス

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【#42】ぼくのフライドチキンはおいしいよーあのカーネルおじさんの、びっくり人生(中尾明)

【#75】ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り(ニック・ビルトン)

【#128】OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語(佐藤芳之)

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【#50】渋谷ではたらく社長の告白(藤田晋)

【#52】20代の起業論(榊原健太郎)

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【#113】就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法

【#133】告白 秒速で転落した事実(与沢翼)

【#191】我が逃走(家入一真)

【#197】もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?Vol.1

▼社会起業

【#13】裸でも生きる2(山口絵理子)

【#33】社会を変える仕事をしよう ビッグイシュー 10年続けてわかった大事なこと(佐野章二)

【#41】ビッグイシューの挑戦(佐野章二)

【#55】雇用創造革命(渡邉幸義)

【#56】美点凝視の経営 障がい者雇用の明日を拓く(渡邉幸義)

【#120】社会貢献でメシを食う(米倉誠一郎)

NPONGO

【#07】僕はこうして世界を変えるために一歩を踏み出した(鬼丸昌也)

【#08】「20円」で世界をつなぐ仕事(木暮真久)

【#11】カタリバという授業(上阪徹)

【#14】マイクロソフトでは出会えなかった天職(ジョン・ウッド)

【#71】大卒だって無職になる"はたらく"につまずく若者たち(工藤啓)

▼エッセイ

【#18】憂鬱でなければ仕事でない(見城徹 藤田晋)

【#29】編集者という病い(見城徹)

【#37】仕事は99%気配り(川田修)

【#51】稼ぐが勝ち(堀江貴文)

【#57】最強のNo.2(曽山哲人)

【#81】ゼローーーなにもない自分に小さなイチを足していく(堀江貴文)

【#82】また、あの人と働きたい(黒岩功)

【#140】ぼくらの未来のつくり方(家入一真)

【#145】歩き続ければ、大丈夫(佐藤芳之)

【#179】運を支配する(桜井章一 藤田晋)

【#185】たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉(見城徹)

【#190】社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず、意志は存続するという話(小林佳徳)

▼対談

【#49】ホリエモン×ひろゆき 語りつくした本音の12時間「なんかヘンだよね・・・」(堀江貴文 西村博之)

【#144】マネーと国家と僕らの未来(ハッカーズ 茂木健一郎 堀江貴文 金杉肇)

▼性

【#28】セックスヘルパー尋常ならざる情熱(坂爪真吾)

【#93】名前のない女たち(中村淳彦)

【#107】私は障害者向けのデリヘル嬢(大森みゆき)

【#169】AV男優の流儀(鈴木おさむ)

【#209】こんな漫画家になりたくなかった 風俗体験取材28年間の苦悩(コモエスタ神楽坂)

【#216】高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職(紗倉まな)

【#241】封印されたアダルトビデオ(井川楊枝)

【#253】キカタン日記 無名の大部屋女優からAV女王に駆け上がった内気な女の子のリアルストーリー(上原亜衣)

【#257】うちの娘はAV女優です(アケミン)

▼恋愛

【#187】LOVE理論(水野敬也)

【#225】マイナスからの恋愛革命(井上裕介)

▼漫画

【#171】ワイセツってなんですか?自称芸術家と呼ばれた私(ろくでなし子)

ノンフィクション

▼事件・裁判

【#67】逮捕されるまで 空白の2年7ヶ月の記録(市橋達也)

【#98】なぜ君は絶望と闘えたのかー本村洋の3300日(門田隆将)

【#104】淳(土師守)

【#109】ルポ 虐待ー大阪二児置き去り死事件(杉山春)

【#147】秋葉原事件ー加藤智大の軌跡(中島岳志)

【#149】袴田事件を裁いた男 無罪を確信しながら死刑判決文を書いた元判事の転落と再生の四十六年(尾形誠規)

【#211】裁かれた命 死刑囚からの手紙(堀川恵子)

▼海外

【#143】シャドウ・ダイバー深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち(ロバート・カーソン)

【#152】レンタルチャイルドー神に弄ばれる貧しき子供たち(石井光太)

【#155】ダイブー水深170メートルに逝った愛(ピピン・フェレーラス)

【#224】ボーパール午前零時五分(ドミニク・ラピエール)

▼脱北

【#219】生きるための選択ー少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った(パク・ヨンミ)

【#232】7つの名前を持つ少女 ある脱北者の物語(イ・ヒョンソ)

▼人

【#91】気象キャスターになりたい人へ伝えたいこと(井田寛子)

【#115】ママが生きた証(小松武幸)

【#119】女盗賊プーラン・デヴィ

【#163】聖の青春(大崎善生)

【#238】127時間(アーロン・ラルストン)

▼殺処分

【#132】いのちの花 捨てられた犬と猫の魂を花に変えた私たちの物語(向井愛美)

【#173】犬たちをおくる日ーこの命、灰になるために生まれてきたんじゃない(今西乃子)

▼動物

【#111】ボブという名のストリート・キャット(ジェームズ・ボーエン)

【#116】盲導犬になれなかったスキッパー(藤崎順子)

【#136】介助犬を育てる少女たち(大塚敦子)

【#235】ボブがくれた世界 ぼくらの小さな冒険(ジェームズ・ボーエン)

▼9.11

【#175】9月11日の英雄たちー世界貿易センタービルに最後まで残った消防士の手記

【#189】9・11生死を分けた102分 崩壊する超高層ビル内部からの驚きの証言

▼3.11

【#84】あのとき、大川小学校で何が起きたのか(池上正樹)

【#159】知ろうとすること(糸井重里 早野龍五)

【#160】奇跡の中学校 3.11を生きるエネルギーに変えた生徒と先生の物語(佐藤淳一)

【#172】おいで、一緒にいこうー福島原発20キロ圏内のペットレスキュー(森絵都)

【#210】石巻・にゃんこ島の奇跡 田代島で始まった"猫たちの復興プロジェクト"(石丸かずみ)

▼社会問題

【#47】近頃の若者はなぜダメなのか?(原田曜平)

【#70】Itと呼ばれた子(デイヴ・ペルザー)

【#77】ねじれた絆 赤ちゃん取り間違え事件の17年(奥野修司)

【#142】スクールセクハラ(池谷孝司)

【#156】告発は終わらないーミートホープ事件の真相(赤羽喜六)

▼未分類

【#101】不登校児 再生の島(奥野修司)

【#112】高校生一万人署名活動 高校生パワーが世界を変える

【#220】ディレクターズノート もうひとつのプロフェッショナル(NHKプロフェッショナル制作班)

障がい・難病

▼手記

【#24】難病東大生(内藤佐和子)

【#76】まだ17歳だけど、人生って面白いと思う(岩淵大起)

【#80】日本一ヘタな歌手(濱田朝美)

【#90】わたし、男子校出身です(椿姫彩菜)

【#114】99%ありがとう ALSにも奪えないもの(藤田正裕)

【#118】ぼくらはみんな生きている 18歳ですべての記憶を失くした青年の手記(坪倉優介)

【#170】リサ・H エレファント・マン病とたたかった少女の記録

【#200】働く、ということー十九歳で社長になった重度障がい者の物語(佐藤仙務)

【#239】音に出会った日(ジョー・ミルン)

【#254】未来のことは未来の私にまかせよう(黒木奈々)

▼まんが

【#242】生きづらいと思ったら親子で発達障がいでした(モンズースー)

エッセイ

【#30】有名人になるということ(勝間和代)

【#48】「働きたくない」というあなたへ(山田ズーニー)

【#53】娘が心配で死ねません(西尾志津子)

【#85】勝ち続ける意志力(梅原大吾)

【#102】私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか(松本聡香)

【#157】傷口から人生 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった(小野美由紀)

▼旅行記

【#79】ぼくらの人生を変えた世界一周(TABIPPO)

【#97】わたしはなぜタダで世界一周できたのか(伊東春香)

【#167】トットちゃんとトットちゃんたち1997-2014(黒柳徹子)

国際協力

【#86】飛べない鳥たちへー無償無給の国際医療ボランティア「ジャパンハート」の挑戦(吉岡秀人)

【#124】「国際協力」をやってみませんか?(山本敏晴)

【#129】マジでガチなボランティア(石松宏章)

【#221】ケニアへかけた虹の橋:30年の国際ボランティア活動(NPO法人「少年ケニアの友」)

【#237】僕らはソマリアギャングと夢を語る(永井陽右)

【#251】職業は武装解除(瀬谷ルミ子)

文章術

【#127】調べる技術・書く技術(野村進)

ワークショップ

【#122】「未来の学び」をデザインする(美馬のゆり 山内祐平)

英語

【#92】ビッグファットキャットの世界一簡単な英語の本(向山淳子)

職業は武装解除 瀬谷ルミ子

職業は武装解除 (朝日文庫)

職業は武装解除 (朝日文庫)

 

『職業は武装解除』を読んだ。

国際協力に詳しいひとはすぐにピンときたかもしれないが、そういうことに疎いひとは「職業が武装解除???」と思っただろう。

その疑問は冒頭で著者の瀬谷ルミ子さんが解消してくれる。

 

私は三十四歳、職業は武装解除ですー。こう自己紹介をすると、日本だけでなく、世界のたいていの人たちは、私が過激派系の人ではないかと一瞬疑いの目を向ける。核兵器関連のお仕事ですかと尋ねる人もいる。確かに、「武装解除」なんて、日常会話であまり使わない単語だ。

武装解除とは、紛争が終わったあと、兵士たちから武器を回収して、これからは一般市民として生活していけるように職業訓練などをほどこし、社会復帰させる仕事だ。武装解除の対象になるのは、国の正式な軍隊のときもあれば、民兵組織のときもある。そして、兵士といっても、六歳の子ども兵もいれば、六十歳を超えた年配の兵士、武装勢力に誘拐された武器を持たない女性まで、さまざまだ。

 

日本では平和をあたりまえのように享受しているが、中東やアフリカでは民族間の争いは日常的なことだ。世界を見渡せば、武装解除が必要な国は少なくないことが分かる。

そこで瀬谷さんのような人や組織が民族間の仲裁役となるのだ。

瀬谷さんはこれまでにケニアソマリアスーダンシエラレオネルワンダコートジボワールなど数多くの紛争地を渡り歩いてきた。

 

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ソマリアケニアルワンダ南スーダンコートジボワール黄色シエラレオネ

 

本書を読んでいると、日本で平和を享受していることが当たり前でないことに気づかされる。瀬谷さんが訪れる国では、ひとりで夜道を歩けなかったり、警察がテロリストと手を組んでいたりすることだってある。

 

また、紛争を終わらせるためには苦渋な決断を下さなければならないこともある。

瀬谷さんがシエラレオネ武装解除に取り組んだときのことだ。このとき武装解除の目処が立ったが、武装勢力からあるひとつの条件を突きつけられた。

それは、内戦中に行った戦争犯罪を無罪にすること。つまり、今までの犯罪行為を帳消しにして、自分たちを一般人として生活させてくれ、ということだ。

単純に考えれば、こんな無茶な要求が通るはずがない。殺人犯が「たくさんの人を殺しちゃったけど、ノウノウと一般人として生きたい!」と言っているようなものだからだ。しかし、この要求は通ってしまう。そして、これは「和平合意」や「武装解除」の世界では当たり前のことだと瀬谷さんは言う。いったいどういうことなのか。

それは武装勢力側の気持ちになって考えれば、自ずとわかる。無罪にならなければ、彼らは武装解除するメリットがないのだ。

「武器を捨てたら自分たちの犯罪行為はチャラになるし、殺人や窃盗をしなくても生きていける。さらに職業訓練も受けれて、将来も安泰」

これが武装勢力側の気持ちだ。これが「今までの犯罪行為を見逃すことはできないけど、武器捨てて投降してね」と言われたらどうだろうか。「だったら武器捨てません。徹底抗戦します」となるわけだ。

武装勢力に家族や恋人を殺された人にとってはたまったものではないだろう。しかし、平和な世の中を実現するには彼らの言い分を呑み、前進するしかないのだ。

 

平和とは、時に残酷なトレードオフのうえで成り立っている。安全を確保するためのやむを得ない手段として、「加害者」に恩恵が与えられる。その「加害者」には、元子ども兵のミランのように、好んで加害者となったわけではない、むしろ紛争の被害者といえる者もいる。物心ついたときから銃を持たされ、教育を受けたこともなく、戦うこと以外に自分の価値がないと心から信じてしまう者もいる。こういった人々への救済策は、確かに必要だ。

一方で、家族を失ったり、身体に障害が残ったり、家を失い避難民となっている「被害者」に、同じレベルの恩恵が行き渡ることはめったにない。加害者の人数と比べて、被害者の数が圧倒的に多いからだ。シエラレオネで最終的に武装解除された兵士の数が7万2000人ほどであるのに対し、死者数は推定5万人、それ以外の被害者数はおよそ50万人ほどである。

 

平和を実現するための代償が「加害者の無罪放免で被害者の泣き寝入り」なんて、なんとも残酷な話だ。

実際、瀬谷さんもこのジレンマに悩み苦しまされることになるわけだが、武装解除のむずかしさはそれだけではない。

瀬谷さんがシエラレオネに赴任して10ヶ月後、武装解除のプロジェクトが順調に進んでいたときのことだ。3人の若者が瀬谷さんに話しかけてきた。

 

「あなた、DDRの部署の人でしょう?俺たち、元兵士で、職業訓練を受けたけどその後の生活が苦しくて困ってるんだ、何とかしてくれるんでしょう?」

満面の笑みを浮かべながらそう言う彼らを見て、違和感の原因が分かった。当時、DDRは、画期的な支援だと評価を高めていた。多くのドナー国が資金を提供してくれた。かつての私も含めて、外国の大学や団体から、目新しい取り組みの調査のために子ども兵士や兵士を探して村々をまわる人々もいた。そのせいか、一部の元兵士たちは、自分たちが困っていると訴えさえすれば誰かが支援をしてくれると感じ、自分たちの存在には価値があるという若干の誇らしさを感じるようになっていたのだ。

私は頭を抱えた、単に彼らに経済的に自立する意思が育たないだけの問題じゃない。加害者が優遇され、もてはやされる風潮が長引くと、「無罪になって恩恵がもらえるなら、加害者になったほうが得だ」という価値観が社会に根付いてしまう。

 

いわゆる「支援慣れ」という現象のひとつだろう。支援してもらうことが当然だと感じ、自立の弊害となるものである。

平和をもたらすために決断した行動が、結果的にその国に害をもたらす可能性だってあるわけだ。加害者と被害者の利益のバランスを考えながら、さらに彼らが自立していくためのプロセスまでつくらなければならない。なんというか、先が長くしんどい仕事である。

 

yukiumaoka.hatenablog.com

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これまでにいくつか国際協力に関する本を読んできたが、圧倒的におもしろい一冊だった。ちなみに、瀬谷さんはNHK「プロフェッショナル」にも出演しているのだが、今度はそっちを見てみるつもりだ。

 

第116回 瀬谷ルミ子(2009年4月21日放送)| これまでの放送 | NHK プロフェッショナル 仕事の流儀