イチロー「ようやくプロ野球選手になったんだ」と語るその真意とは《Number 876号 イチロー主義2015》
Number(ナンバー)876号 イチロー主義 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/04/16
- メディア: 雑誌
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内容紹介(アマゾンより)
所属先のないオフを経て、新天地マイアミ・マーリンズでメジャー15年目のシーズンを迎えたイチロー。その表情は、驚くほど明るい。1時間半を超える異例の長さとなった巻頭10ページのロングインタビュー「変化、破壊、成熟」をはじめ、イチロー番記者22年目となる小西慶三氏のキャンプレポート、新チームマーリンズの分析や、話題となった「ゆるTシャツコレクション」、新聞15年分の情報に全て目を通した編集部T君の汗と涙の結晶「イチロー2001-2015 完全年表&51の名言」など、今のイチローに迫る特集号。
新チームで好スタートを切った青木宣親、新たな投球スタイルへの試行錯誤が続く田中将大、そしておそらく、マイナーリーグでも誰よりもベースボールを愛し、全力でプレーする川崎宗則の特集記事と合わせてお楽しみください。
失敗のことだけが記憶に残っている
「"イチロー"になって21年... ...20歳のころから、何が変わって、何が変わらない感じがしますか」という問いに対して、イチローはこう答えた。
20歳のころは目の前のものが新しくて、すべてが無邪気に楽しかった。上手くいくこととしか向き合いませんでしたから、あんなに子どもみたいにいられたんだと思います。それがいつしか自分の失敗と向き合うようになった。失敗のことだけが記憶に残るようになって、考え方も変わってくる。そのとき、ようやく自分はプロ野球選手になったんだと実感したような気がします。
メジャーリーグで数々のすばらしい記録をのこしてきたにもかかわらず、「ようやくプロ野球選手になったんだ」とイチローは言う。この世界がいかに厳しい場所なのか、そんなことを感じさせられるコメントだ。
じつは、日米通算4000本安打を達成したときの記者会見でも似たようなことをイチローは言っていた。
プロの世界でやっている、どの世界でも同じだと思うんですけど、記憶に残っているのは、上手くいったことではなくて、上手くいかなかったことなんですよね。その記憶が強く残るから、ストレスを抱えるわけですよね。これは、アマチュアで楽しく野球をやっていれば、いいことばっか残る。
でも、楽しいだけだと思うんですよね。コレはどの世界も同じこと。皆さんも同じだと思うんですよね。そのストレスを抱えた中で、瞬間的に喜びが訪れる、そしてはかなく消えていく、見たいな。それが、プロの世界の醍醐味でもあると思うんですけど、もっと楽しい記憶が残ったらいいのになあというふうに常に思っていますけど、きっとないんだろうなあと思います。
楽しさというのは、野球をするうえで大事な要素だ。楽しいからこそ、上手くなろうとするし、練習もする。だが、楽しいだけでは、プロの世界で戦っていくことはできない。ある意味楽しさを消さなければ、プロ、そしてメジャーの舞台で活躍することはできないのかもしれない。
イチローの失敗と向き合う姿勢は、幻冬舎の社長である見城さんにすごく似ている。
見城さんは、夜、自宅に帰るとあらゆることをメモした手帳を見ながら今日1日のふりかえりをはじめる。「あぁ、これチェックしないと...」「あの決断はよかったのか...」「今日のおれの発言はあの場面で正しかったのか...」そんなことを思いながら、ずーっと手帳をみる。そうすると、だんだん憂鬱になってきて「あ〜死にたいなあ」と思うらしい。
イチローがやっていることはスポーツだし、見城さんがやっていることは経営だから、ふたりとも違うフィールドに立っているのだけど、一流とよばれるひとたちは、常に失敗と向き合っているのかもしれない。
大谷翔平は、打者になるべき
10年にひとりの逸材とよばれる日本ハムファイターズの大谷翔平。前代未聞の二刀流に取り組み、1年目から日本ハムでレギュラーとして活躍し、投打ともにすばらしい成績をのこし、今年はプレミアム12にも選ばれ、準決勝の韓国戦では7回1失点という見事な投球を披露した。いずれはメジャーリーグに挑戦するであろう大谷をイチローはどう見ているのだろうか?
イチローは、イチローらしいというか、ほかの選手や監督とはちがう見方をしていた。
ー選手としての印象はいかがですか。
イチロー:バッターをやればいいのにと思いました。すごいピッチャーはいくらでも出てきます。でも、あんなバッターはなかなか出てこない。実際にグラウンドで対戦したわけでもない距離感の中での話ですけど、彼ほどのバッターはなかなかいないと思います。まずは、あの体格というアドバンテージがあって、その上に技術がある。ああやってバットの面にボールを乗せていくバッティングができる選手は限られています。僕はたくさんのバッターを見てきましたけど、大半の選手はバットにボールを当てる時間が短いんです。でも、大谷は違いますね。バットの面にピッターとボールがくっついてくる。
ーそれは何ができていると可能になるんですか。
イチロー:わかりやすく言えば、インサイドアウトのスイングができているということです。
ーヘッドが遅れてでてくるということですね。
イチロー:しかも大谷の場合は、手も出てこない。グリップが最後まで残っていて、しかもスイングの軌道がインサイドアウト...おそらくこれができている選手というのは、小学生のときからできているんだと思います。プロになってからできるものじゃない。
ーイチロー選手もそうだったんですか。
イチロー:そうです。でも、やろうと思ってできたことじゃない。すでにそうなってるんです。だから、これは努力ではどうしようもない。残念ながら、できる人とできない人との間に越えられない壁がある技術なんです。
ここでおどろくべきことは、大谷をバッターとして褒め称えていることだ。多くの評論家や解説者は、ピッチャーとしての力を認めていた。田中将大やダルビッシュも、メジャーに挑戦するならば、ピッチャーとしていくべきだろうと言った。
多くのひとが投手として大谷を褒め称えたことに対して、イチローは打者を勧めていることに、おどろきを隠せない。やはり、打者として一流だからこそ、自分と同じ技術をもつ大谷になにかシンパシーのようなものを感じたのかもしれない。そんなイチローの想いや考えがつまったインタビュー、イチローファンならば買いの一冊だ。
Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 9/19号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/09/05
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