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芸人として売れるには◯◯を見ろ!現役NSC講師が教えるお笑い哲学《吉本芸人に学ぶ生き残る力 本多正識》

吉本芸人に学ぶ 生き残る力

吉本芸人に学ぶ 生き残る力

 

NSC、ニュースタークリエーションの略称。吉本興業が運営するお笑い養成所だ。東京、大阪、沖縄の3拠点を構え、現在のバラエティで活躍する多くの芸人がここで生まれた。創設されたのが1982年。この年に入学してきた第1期生こそがあのダウンタウンだ。そして、この第1期生に明石家さんま島田紳助オール巨人が順番に授業を行い、生徒たちのネタを見た。その後、三人が集まって「一組だけスゴいコンビがいたな」となり、それが三人ともダウンタウンで一致していた、というのは有名な話だ。

キングコングオリエンタルラジオも養成所時代から、ずば抜けた実力を持っていたらしく、オリエンタルラジオなんかは、卒業前から卒業後のテレビ出演が多数決まっていた(一年目からテレビに出演なんてことは普通はありえない)

毎年1000人近くがこの門をたたくが、夏には半分がこの学校を去り、卒業するころには300人ほどになっているらしい。じつに厳しい世界である。

 

『よしもと芸人に学ぶ生き残る力』を読んだ。著者の本多正識さんは、漫才作家であり、現役NSC講師だ。

本書は、そのNSCの講師を務める本多さんが芸人として売れるのはどうしたらいいのか、売れてきた生徒の共通点などそういったことが書かれている。また、本多さんの教え子であるナインティナイン岡村隆史キングコング西野亮廣南海キャンディーズ山里亮太ウーマンラッシュアワー村本大輔といった教え子の芸人との対談も収録されており、NSC時代のかれらの姿を知ることができる。NSC時代の思い出話はお笑いファンにとって貴重で、これがなかなかおもしろい。

 

NSCでいちばんされる質問

 

「人を笑わせるにはどうすればいいんですか?」

そのたびに私はこう答えています。「ニュースを見なさい」ここで彼らはみな首をかしげます。ニュース番組を「お堅い、真面目」とイメージしているので、「笑い」からはもっとも縁遠いものだと思っているのです。
しかし、それは大きな間違いです。実は、ニュースを見ることは笑いを生むことに直結しているのです。
人を笑わせる代表的な手法に「常識を覆す」というものがあります。わかりやすい例では、「こんにちは」と言った拍子に、首を横に倒すだけで笑いが取れます。これは、見ている側に「こんにちは=会釈をする=頭を前に下げる」という常識があるため、「その挨拶はおかしい」となって笑いが生まれるのです。
この例は「常識を知る=笑いを取れる」ということを示しています。そして、その常識を効率よく学ぶための、もっとも洗練された媒体が「ニュース」なのです。

 

ネタをつくることでもなく、売れている芸人の真似をするのでなく、ニュースを見る。お笑いとは関係なさそうだが、これが笑いの上達の早道だという。

ちなみにこの基本を教えられてもしっかりとやるひとは少ない。そして、この基本を忠実にやり続けた男こそが山里亮太だ。山里さんとの対談で本多さんはこう語っていた。

 

本多 最初の授業でこれからはニュースをしっかり見るようにって言ったときに、山ちゃんが「どのニュースが一番わかりやすいですか?」って聞いてきた。だから当時、池上彰さんがNHKでやっていた「週刊こどもニュースかな」って言ったら、それからずっと見てたんだよね。
何年後かに、楽屋でめちゃくちゃ重たいカバンを持ってて、「お前何入れてんねん?」てカバンを開けたら、その「こどもニュース」の本や政治・経済のハードカバーの本が5〜6冊入ってて。「ずっと勉強してんねや」って言ったら、「紳助さんやさんまさんに、山里どうやねんて言われたときにすぐに返事ができないと、僕のポジションはなくなりますから。だから今が一番勉強してます」って、あの言葉がものすごい印象に残った。そのことを授業で言わせてもらってる。「それくらい努力しないと残られへん」て。自分のポジションをどれだけ早く理解するか。

 

自分のポジションを理解することは難しい。野球のようにポジションが明確に分かれていればいいが、お笑いの世界では野球ほどポジションが明確ではない。だれもどこのポジションが空いているかなんて教えてくれないし、たとえポジションが見つかったとしても、それが自分の適しているのかすらもわからない。

ポジションに関して、印象深いエピソードがある。すでに芸能界を引退した島田紳助さんが、以前出演していたテレビ番組でこう言っていた。

「さんまやオール巨人阪神がいなかったら、いまの自分はいない」と。

明石家さんまオール巨人阪神は、同期のなかでも飛び抜けた存在だった。さんまさんは天性の明るさを身にまとった人気者、オール巨人阪神さんはずば抜けた漫才の実力者。「人気者はダメ、漫才も無理...なら、オレはヒール役や!」と自分の向かう道とポジションが自然と決まったという。

これがいわゆる頭をリーゼントにして、つなぎを着て漫才をするツッパリ漫才につながった。個性が強い同期の三人がいたからこそ、紳助さんは己のポジションを見つけることができたのだ。

 

お笑い以外で勝負しようとした

 

本多 山ちゃんは、ホントによく質問してたもんね。毎回あまりに熱心だから、この子大丈夫かな、考えすぎて、ノイローゼにならないかなって心配だった。

山里 決めてたんですよ、先生には絶対質問するって。その授業の前のネタ合わせと、先生への質問と、その質問から派生して、聞かれたらこう返すっていうのを、毎回授業の前に2時間取ってました。いやらしい話、先生に質問いっぱいするやつは覚えてもらえますから。頑張ってるってことをアピールできる。(中略)
たとえ"メモ取り魔"と言われても一生懸命メモを取る。ネタ合わせを何十回、何百回やって、先生の言われたことを守る。そして、それを先生に見てもらって覚えてもらうっていうような、お笑い以外の部分で勝負しようとしたのが、結果お笑いの力も付いていったということですね。

 

自分に力がないことを認めるのは難しい。しかし、山里さんは早くから自分に力がないことを認め、お笑い以外の部分で勝負をした。それが結果的によかった。ある意味戦略的ともいえるだろう。山里さんがとった戦略は決していやらしいものではない。そもそもやろうと思っても、なかなかできないことだ。

 

現役講師がはじめてNSCの実態を明かすこの一冊、お笑いファンならば、ぜひ読むことをおすすめする。

 

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