読書めも

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「オヤジ、おれ芸人になる」と息子から言われたらこれを読ませよう《プロレタリア芸人 本坊元児》

プロレタリア芸人

プロレタリア芸人

 

「芸人ドキュメンタリー 下がり上がり」

 

およそ1年ほど前からはじまった松本人志陣内智則のランチ会をあなたは知っているだろうか。

これは、陣内さんが松本さんに(松本と)面識のない芸人を紹介し、ランチを一緒にするというもの。そこには、腕はあるのに伸び悩んでいる人や芸人を辞めようかと思っている人などが参加してきた。

「芸人ドキュメンタリー 下がり上がり」は、それを実際に企画としてカタチにしたものだ。陣内さんが司会進行を務め、松本さんが芸人の悩みに真剣に答える。

普段あまりテレビに出ない芸人にスポットライトを当てているので、芸人で食っていくこと、芸人として売れることがいかに難しいことなのかを感じることができる。また、松本さんの辛辣で本質を突くことばも、見どころだ。

 

本書は、下がり上がりの第二回に登場したソラシドのボケ担当、本坊さんが書いたものだ。芸歴17年、同期には麒麟やアジアンといったコンビがいる。芸人としての仕事はほとんどなく、月28日のアルバイトで生計を立てている。アルバイトと吉本の仕事を合わせても、月に20万以上手にしたことがない。そんな本坊さんの日常を描いたエッセイ。

本坊さんのアルバイトは建設現場の作業員。建設現場の作業員の朝は早い。朝5時に起き、旧日本兵のような作業着に着替え、電車に乗って営業所へ行く毎日。工事現場で穴掘りをしたり、解体現場で石膏ボードの粉塵やら断熱材のガラス粒子が体に突き刺さり、身体中がかゆくなったりもする。

 

日当は、安全衛生責任者の資格を新たに取ったので、五百円アップして八千五百円になりました。この八千五百円を取りに現場へ出ます。月に28日しかない2月なんぞは二万五千五百円の損と考えます。一日一日が金になる。

そんな日々の中に訪れる選挙には腹が立つ。当然、僕も選挙に行きますが、誰かが任期をまっとうせずに不祥事かなんかでケツを割ってしまい、それで行われる選挙には腹が立つ。政治家に「国民はそんなにヒマじゃねーよ」と言ってやりたい。(中略)

 

「選挙に行こう!」とよく言うけれど、一日休んだらマイナス八千五百円なのです。途中で責任を投げ出し、選挙という形で国民の手を煩わせておいて、「選挙に行こう!」じゃねーんだよ、先生。

 

テレビで見るような芸人になれるのは、ほんのごく一部。ほとんどの芸人がこんなにもキツイ毎日を送っているのかと思うと、いたたまれなくなるし、芸人の現実を突きつけられるような気がする。

以前、サンドウィッチマンが書いた「敗者復活」を読んだときに、芸人として生きていくことの大変なんだなぁとぼんやりと思ったが、それ以上だ。サンドウィッチマンは、最終的にM-1で優勝し、年収が7倍に上がり、売れっ子となったから、ハッピーエンドで締めくくられていたけど、本書の結末はそうではない。

きっと読み終えたとき、若手芸人・中堅芸人の地獄の現状をあなたは知ることになるだろう。お笑い芸人を夢見る学生がこれを読んだら、あまりのキツさに、芸人になることを足踏みするかもしれない。

 

 

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