【書評】黒人の公民権運動はこの男から始まった《キング牧師ー人種の平等と人間愛を求めて》
キング牧師―人種の平等と人間愛を求めて (岩波ジュニア新書)
- 作者: 辻内鏡人,中條献
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1993/06/21
- メディア: 新書
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歴史が変わってゆく瞬間を垣間見ることができた、そんな一冊だった。
I have a dreamでおなじみのキング牧師。ほとんどのひとが中学校の英語の単元で習っているはず。「公民権運動」「アパルトヘイト」「人種差別」、たしかにこれらの言葉は歴史で習った。「ジャッキー・ロビンソン物語」でも、黒人が白人に長年虐げられていたのは知っていた。でも、じぶんの知っていたことは歴史のごくわずかだったんだなぁと思った。
たとえば、「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」。
当時アメリカのバスは白人専用の席と黒人専用の席に分かれていて、白人専用の席がいっぱいになると、黒人専用の席を白人に譲らねばならなかった(譲らないとバスの運転手に促されるし、暴行を受けることもあった)。1955年ミセスローザ・パークスは、白人専用の席に座っており、白人が来ても席を譲ろうとしなかったことで、警察に逮捕され、留置所に送られることになる。これがきっかけとなり、多くの黒人がバスを利用しないというボイコットを行った。
キング牧師はバスに乗客の人影がないのをはっきりと確認しました。二台目のバス、そして、三台目のバスにもやはり黒人の乗客の姿は見えませんでした。信じられない光景に、キングは、アバナシーとともに車で町中を走ってみました。すると、どうでしょう。
黒人の学生たちは、うれしそうにアラバマ大学までヒッチハイクをしていました。しないの仕事場まで、20キロ近くを歩いて通う初老の労働者もいました。ラバにまたがって来る者もいれば、馬に馬車を引かせてくる者もいました。しかし、誰ひとりとして、バス停でバスを待っている者はいませんでした。これは、もう100パーセントの成功といっていい状態でした。
そう、キング牧師は「暴力」に訴えるのではなく、このような「運動」で黒人の人種差別を解決しようとしたのだ。バス・ボイコット事件後、連邦裁判所が人種隔離が違憲であると判断し、黒人たちは歓喜の声をあげる。しかし、キング牧師はこのとき冷静でした。歓喜の声をあげる群衆にこう言った。
キング牧師:もし、みなさんのなかに「われわれ黒人は白人に勝ったのだ」と自慢しながらバスに乗る人がいるとしたら、それは非常に残念なことです。これは、白人に対する勝利というよりも、正義と民主主義の勝利と考えねばなりません。
彼は、非暴力の思想をいつも掲げていた。黒人が人種差別を訴えるなかで、多くの黒人が白人の手によって倒れていく。キング牧師も、 自宅に爆弾をしかけられたり、ナイフで刺されたり、絶え間ない脅迫に悩まされつづけた。
だが、1968年4月、キング牧師は一発の凶弾によって生涯を閉じることになる。たったの39歳。しかし、彼は死がじぶんの近くにあることをいつも覚悟していた。ケネディ大統領が暗殺されたときに、妻であるコレッタにこう言った。「私が40歳まで生きることはないだろうな」と。つづけて「私にも同じことが起こるさ。いつも言っているだろう。この国は病んでいるんだ」と。大統領の死に、キングは自分の将来の姿を重ねていたのかもしれない。
6月にキング牧師が主人公とした映画が上映されるそうです。