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【書評】不変 上原浩治

不変

不変

 

 プロ野球選手って思っているほど華やかじゃないし、すごくたいへん、そう思った一冊でした。それくらい上原浩治のぶっちゃけ話が書かれていたし、上原に対するイメージがかわった。

シーズン途中の移籍は、いわば転校生だ。言葉のわかる日本国内での転校なら、まだなんとかなったのかもしれない。だが、言葉の通じないアメリカでの転校生活。新しい環境に慣れるのは、簡単なことではなかった。

 

だが、シーズン真っ只中の移籍ではその「安心感」を手にする時間がなかった。テキサスに移籍した僕には、2年以上かけてボルチモアで築いた人間関係が一気にゼロになった。

 

結局、2011年シーズンは、最後まで安定した気持ちを手にすることはできなかった。一度乱れた心を修正することができなかった。心の乱れはポストシーズンでも続き、結果的に、僕は悪夢を見た。

 

翌2012年、テキサスのスプリングキャンプで僕は仲間と交流を深めようとした。ただ、キャンプ中にまたしても移籍の話が出た。そのことで、僕の心は乱れてしまった。

 

みなさんは、「上原浩治」という人間に対して、どんなイメージを持っているだろうか?そんな些細なことが、成績に影響するなんて信じられないとおもうだろうか?おそらく、みなさんが思っているほど、僕は強い人間ではないのだと思う。

 これは、オリオールズからレンジャーズに移籍したときの話。レンジャーズに移籍した際も上原は中継ぎとして決して悪くない成績を残していた。しかも、僕自身がイメージしていた上原浩治とはすこしちがった人物像を見れたような気がする。

 

 2013年ワールドシリーズの胴上げ投手となり、一躍時の人となった上原浩治。いまやレッドソックスの不動のクローザーというポジションを確立しているが、彼ほど光のある場所と陰のある場所に行き来した人物はいないだろう。

 高校時代は甲子園に出場できず、大学進学する際に浪人を経験し、巨人軍に入団1年目に20勝し、沢村賞を受賞。その後、この1年目の成績を超えることはなく、何度もケガを経験し、決して若いとは言えない34歳のときに、メジャーリーグ挑戦を表明し、オリオールズに入団。ところが、シーズンが始まりすぐに、選手生命を脅かす「右ひじ腱の断裂」が判明し、約1年かけてマイナーリーグでリハビリを行う。その後レンジャーズにトレードされ、紆余曲折を経て、レッドソックスのクローザーに。

 さらに投手の花形の「先発」、あまり光が当たらない「中継ぎ」、そして1年間ローテーションを守れればいいと言われている「抑え」これらすべてを経験している。歴代のメジャーリーガーでこれら3つを経験し、活躍した投手はいない。

 

 ところで、この本のタイトルが僕は気になった。なぜ"不変"なのか。彼の代名詞とも言える「雑草魂」それならば納得できる。その答えは、本書のおわりの方で分かった。

2013年を振り返り、多くの人は僕にこう質問をする。「これまでと比べて何が一番変わりましたか?」

 

僕ははっきりとこう答える。「何も変えていない」そして「何も変わっていない」と。僕は「変えなかったこと」が、大きな成果を生んだと思っている。これまでと変わらず、やるべきことをコツコツと継続してやってきたことが実を結んだ。3〜4日の継続ではなくて、何年もかけて積み重ねてきたものが2013年にやっと花開いたとおもっている。調整方法や生活のリズム、そして思考も含めたあらゆるものを、僕は変えていない。

 

「変わったのは野球の結果だけ」はっきりと、そう言える。 

 淡々としているなぁ、とおもった。これがワールドシリーズ胴上げ投手のことばかと。世界一になったのだから、もっとすごい秘訣があるのかと期待していた。でも、自分のやるべきことを淡々とやってきたことが上原浩治の魅力なんだとおもう。そして、上原は世界一になっても2週間後には、2014年のシーズンに向けて始動している

ただ、2013年の余韻に浸ることはない。世界一に胡座をかくつもりはもちろんないし、僕はそんな余裕はない。過去は、あくまでも過去。すでに過ぎ去った時間なのだ。僕はいつだってそう思っている。だから、2014年のシーズンに向けた戦いを、すでに始めている。

 

日本に帰国してから自主トレを続ける一方で、たくさんの取材を受けテレビに出演させていただき、また支え続けてくれる関係者の方々と多くの時間を共にした。感謝の気持ちをこめて。僕の思いをみなさんに伝えたいと思って。

 

だが、そんな時でも、優先すべきは練習。練習に支障をきたすような取材や番組出演は、申し訳ないがすべてお断りさせていただいている。世界一になっても、何もしないのは2週間だけ。僕は、再び野球一色の生活に戻った。もっと、さらにもっと上を目指したい。 

 

 では、彼はどこに向かって走っているのか?続けて彼はこう言っている。

 

僕の野球人生は、まだまだ続く。2013年で終わりじゃないし、引退するわけでもない。だから、今やるべきことを、今できることを毎日コツコツやっている。

 

僕はまだ燃え尽きていない。ワールドシリーズを制覇してもなお、「反骨心」は消えない。本当の頂点とは何か?

 

それは、野球人としてすべてをやり終えた時だと思っている。引退する時が、僕にとっての「頂点」だ。 

 むかえた2014年のシーズン。上原は8月中旬まで2013年と変わらないほどの成績を残していた。だが、8月後半から成績はガタッと落ちた。8月・9月の防御率は19.29。メディアは「上原は終わった」と騒ぎ立てた。レッドソックスとの契約も2014年で解除予定だったので、移籍先の不安があった。

 だが、2014年冬、レッドソックスと上原は2年の契約を延長し、年棒も15億円(推定)とされている。来季の上原の活躍に期待したい。

追記

 エピローグに上原の息子の「カズ」くんについて書かれている。ワールドシリーズでのインタビューのときに、リポーターが英語で質問した際にはっきりと「Excited!」と答えたあの息子だ。このエピローグがこの本の一番すきなところかもしれない。なぜなら野球人としての上原浩治でなく、素の上原が家族に向けての想いを書いているから。