【書評】ぼくらの未来のつくり方 家入一真
社会をアップデートしていく
この本にサブタイトルをつけるならば、「ぼくが都知事選で伝えたかったこと」になるのかなぁ。読み終えておもうのは、都知事選を巻き戻してでみていたような感じだったということ。家入さんがなにを思って都知事選に立候補したのか、都知事選をふりかえって分かったことなど、そんなことがわかる一冊だった。
2014年2月9日に東京都知事選が行われた。最終投票率は、46,14%。過去3番目の低さ。候補者は家入さん以外55歳以上で、家入さんだけ35歳。そして、結果は舛添さんの圧勝。家入さんは、主要4候補に次ぎ5位、最終投票数は88,936票。そんな家入さんは選挙を終えてみてどう思っているのか。
だけど、見える風景や視点はガラッと変わった。自分が誰かと組んで進めるプロジェクト、自分がお金を出すビジネス、そういうものを通じて「どうやってこの社会をアップデートしていくか」を考えるようになったし、そのために自分が行うことの位置づけも含めて、必然性があるものを選ぶようになったと思う。
社会をアップデートしていくとはどういうことなのだろうか?選挙後、家入さんのtwiiterのつぶやきのなかで「社会をアップデートする」ということばをよく目にしたような気がする(記憶がただしければ)。このことについて家入さんはこういっていた。
選挙活動中、巣鴨の地蔵通り商店街をツイキャスしながら歩いたことがある。そこで出会うお年寄りたちに「東京がこういう風に変わったらいいな、と思うことはありますか?」と聞いていった。中には「国民全体の東京都を作ってほしい」「元気のある街にしてほしい 」と、要望を話してくれる人もいたけど、その一方で「今までこれで大過なく暮らしてきたんだから、社会はこのままでいいんだ」という声もとても多いことに驚きを覚えた。
今まではよかっとしても自分の子や孫の世代のことを考えるとそんなこと言えないはずだけど...と思いつつ「ドラスティックに『変える』『変わる」という言葉を使うと不安や拒否感を煽ることになる」とも気づいた。だから、最近のぼくは『社会を変える」ではなく「アップデートしていく」のように、根底からひっくり反すのではなく、今のあり方をベースにしながら少しづついい方向に向かっていくようなニュアンスの言葉を使うようにしている。
ふむふむ、なるほど。今までの家入さんは、0→1をずっとしてきたんじゃないかなぁとおもう(あるいは0→1をしようとしてきた)。格安レンタルサーバーがなかったころに、月額300円ほどでレンタルサーバーを借りれるロリポップをつくったり、カフェをつくったり、クリエーターを支援するCAMPFIREをつくったり。
でも、この選挙で気づいたんだとおもう。「0→1」をすることで不安になってしまうひとや拒否感を出してしまうひとたちの存在に。だから、0→1でなく、1を2に、9を10にしていくような、いわばアップデートしてゆくという言葉を使うようになったんだろう。
「ぼくに一票入れてほしい」
家入さんは、選挙中「ぼくに入れなくていいから、投票に行ってください」とtwitterでしきりに呼びかけていた。だから、ぼくも当選する気がないのかなぁと思っていた。しかし、投票の3日前に家入さんは「言うべきことはそれじゃない」と気づき、「ぼくに投票してください!」とtwitterで呼びかけた。
やば、俺、寝ぼけてた。僕に投票しなくてもいい、なんて好い人ぶったりして。みなさんお願いです、僕にベットしてください。僕に賭けてください。正直どうなるかわかりません。でも、ぼくらが立ち上がって、東京を、日本を、変えるしか無いんです。 pic.twitter.com/z8ORFKu7x7
— 家入一真(BASE, CAMPFIRE) (@hbkr) 2014, 2月 6
その後押しになったのは、みんなの党の山田太郎議員のひとことだったらしい
「家入さん、泣いても笑ってもあと数日なんだから、今しかできない壮大な遊びをしたほうがいいよ。いい人ぶってる場合じゃない」と。(略)
とにかくぼくはそれでハッとした。
その足で事務所に帰って、ボランティアの子を集めてそれを伝えた。「みんな、ごめん。今までぼくはいい人ぶってた。目が覚めた。ぼくに一票を入れてほしい」と。それまではボランティアの子たちの中にも、「ボランティアは手伝うけど、家入さんに入れるかどうかはまだ決めてないし、周りに薦めるつもりもありません」という子がいたし、ぼくもそれでいいと思っていた。
だけど、目の前にいるボランティアのみんな、ネットの向こうで応援してくれている人たちが寄せてくれた熱量に対して、それはとても失礼なことだった。彼らすべての声を背負って、ぼくはそこにいたのだから。
それを聞いていた彼らの中から「ああ、家入さん、ようやく言ってくれましたね」という声が上がった。彼らはずっと、ぼくの「本気」を待っていたのだ。
このシーン、実際にそのとき事務所にいたボランティアのひとにどんな心境だったかきいてみたいなぁ、とおもったシーン。いちばんすきなシーンでした。
家入さん自身、このときまで自分の中に照れがあったという。だけど、このときすべてをかなぐり捨て、「下手でもなんでもいいから、"本気"を伝えなければならない時がある」と思えたんだとか。家入さんの選挙のブレーンを務めた高木新平さんが言っていた「家入さんの言葉が熱を帯び始めた」とはこのときから始まったんじゃないかな、きっと。
家入さんがつくったインターネッ党は、現在稼働していないと言われているようだけど、これからどうなるか次の動きが気になるところ。都知事選の裏側だけでなく、家入さんが「いま」考えていること・思っていること、そんなことを知れる一冊です。