僕らはソマリアギャングと夢を語る 永井陽右
赤で塗られている箇所がソマリア、青で塗られている箇所がケニア、緑で塗られているエチオピア。
感想
ソマリア連邦共和国。1960年にイギリスとイタリアから独立するも、1980年後半に内戦が勃発。さらに1991年には政府が崩壊し無政府状態に。国連や多国籍軍が軍事介入するも失敗。その結果、世界最悪の紛争地のひとつと言われている。
先日「土漠の花」を読んだとき、ソマリアに興味がわいた。この本はソマリアを舞台に7名の自衛官が武装勢力と戦う冒険小説だ。その後ネットでソマリアについて調べていたところ、この本に出会った。
僕らはソマリアギャングと夢を語る――「テロリストではない未来」をつくる挑戦
- 作者: 永井陽右
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2016/05/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「僕らはソマリアギャングと夢を語る」を読んだ。著者は永井陽右(ようすけ)さん。現在イギリスの大学院に通う学生で、日本ソマリア青年機構を立ち上げた人でもある。
日本ソマリア青年機構とは、ソマリアを支援する学生NGOで、ギャングの更生を支援することが主な活動内容だ。つい先日レディフォーで130万円の資金調達にも成功した。
永井さんは大学一年のときに、ケニアのイスリー地区を訪れる。イスリー地区はソマリアからの難民が住む街であり、現地のケニア人も寄りつかないほど治安が悪く、テロリストの巣窟とまで言われる場所であった。
しかし、永井さんがイスリー地区で目にしたのはごく普通のソマリア人が生活している姿で、決してテロリストのような人々がいるとはどうしても思えなかった。
帰国後、イスリー地区でのことを忘れることができず、すぐソマリアについて調べた。すると、ソマリアが抱えている根深い問題を目の当たりにすることになった。機能しない政府、テロリストになる10代・20代の若者たち、拷問・処刑が当たり前の毎日。
そんなことを知っていくうちに、永井さんは耐えがたい痛みを感じるようになる。そして、仲間を集めてこの問題を解決しようと動きだす...
本書は国際協力の実践編だ。大学生だった永井さんがなにを考え、どんな行動をしたのか、そんなことについて書かれている。
そのなかでも特筆すべきなのは、日本ソマリア青年機構が力を入れている「Movement with Gangsters」だろう。これは対話を通してギャングの更生を目的とするプログラムだ。
イスリー地区の治安が悪化した原因は、ギャングが力を持っていることだった。10代〜20代の若者たちは生きるためにギャングに入り、犯罪行為に手をそめる。そのことを知った永井さんたちは、大学生である自分たちだからこそできることを考えた。そして、ギャングと同世代の自分たちだからこそ、彼らと膝を突き合わせて話し合うことができることに気づく。こうして「Movement with Gangsters」が生まれた。
このプログラムの優れた点は、ただギャングと対話するだけで終わらないところだろう。プログラム終了後、ギャングたちはスキルトレーニング(職業訓練のようなもの)を受ける流れとなっている。つまり、就職のフォローまで行っているのだ。
永井さんは人間力大賞を受賞したり、外務大臣奨励賞を受賞したりしているから、学生の人たちにとってはすこし遠い存在かなぁと思ったりするかもしれないが、そんなことはない。ソマリアが抱える問題に戸惑い、悩み、葛藤する姿が本書では描かれている。その姿はふつうの大学生となんら変わりない。
いま国際協力に携わる学生はもちろん、これから国際協力に関わろうとしている学生には必読の一冊だ。
読書めも
・「Movement with Gangsters」で起きたトラブル、スキルトレーニングの受け入れ先でのモメ事などもうすこし踏み込んで書いてほしかった
・このプログラムを聞きつけてきて、プログラムを妨害しようとしたギャングはいたのか
・プログラムを受けた後のギャングたちのその後について書かれているのがよかった