【#115】ママが生きた証 小松武幸
内容と感想
そんな究極な選択を突きつけられたら、人はどうするのでしょうか?少し現実味がなく、僕自身どうすればいいかわからないというのが本音です。この本は、妊娠5ヶ月の妻が余命1年の乳がんを宣告され、家族と共にがんと闘う物語です。この夏にドラマ化もされました。
こういう病気と闘う手記のようなものを読むと、なんとなく死の足音が一歩一歩近づいてきて、悲壮感のようなものを感じることが多いのですが、そういう感覚はあまり感じませんでした。それよりも、生きるために病に家族が闘う姿というような感じでした。
読み終えたあと、そんな感覚を持ったまま、ドラマで小松美恵さんを演じた貫地谷しほりさんのインタビューを読んだときに、その感覚はまちがっていなかったと思いました。
貫地谷しほり:「母親が旅立っていって、そこに新たな命の歩みが始まる。そんな命の力強さをすごく感じたので、それをどう表現すればいいのかを一番に考えました。その一方で、何げない家族との会話など、生活感あふれるシーンは思い切り楽しんでやれました。病気のことよりも“生きている実感”が演じていて強く印象に残りました。」livedoornewsより
「あぁ、そうか」と。この本は、母である美恵さんのありのままの姿を描いており、その美恵さんの証が刻まれているんだなぁと感じました。
本の中身もじっくりと読んでほしいのですが、ぜひ裏表紙も見てほしいと思っています。裏表紙には、旦那さんである武幸さんと奥さんである美恵さん、そして生まれてきた子どもの遼雅(りょうが)くん三人の手形が描かれています。これが個人的にすごくすき。「あぁ、ちゃんと遼雅くんのそばに美恵さんがいるんだな」って思える裏表紙なんです。
読書メモ
1.立派に闘った。誰よりもカッコよかった
あれからちょうど3年。僕たちが思い描いた未来は、掴もうとしていた夢は、たった一言で儚くも消えた。白砂に着いたあの文字が、ほんの少しの潮力で消えてしまったように。
どれだけ運命を憎んだろうか?どれだけ運命に抗っただろう。どれだけ運命について思案しただろう。それなのに運命は、あざ笑うように曲げてはくれなかった。
でも、これだけは信じて欲しい。立派に闘った。誰よりもカッコよかった。世界一だった。あなたの、ママは・・・
2.いま、目の前にいる彼女を救うべきだ
<いま、目の前にいる彼女を救うべきだ>これが自らのお腹を痛め産もうとしている母親と、そうでない父親との違いだ、と批判を浴びても仕方がないだろう。いずれにせよ、"究極の二択"について、美恵は子どもを選び僕は美恵を選ぶ、それがこの時の夫婦の意思だった。
3.死の足音と生への階段
ひとつのベッドにママと子どもが、仲睦まじく寝ている。ごくごくありきたりな光景だが、それがこの病院のベッドでは事情が変わってくる。
ここにいるママには、一歩一歩死の足音が近づいている。ここにいる子どもは、一歩一歩生命の階段を上がっている。
死と生が混在するひとつのベッド。でも、どちらの命も生きようと必死なのは同じである。そしてどちらも、このひとつのベッドで横になっているときが、最高に幸せな瞬間なのだ。