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【書評】5年後メディアは稼げるか 佐々木紀彦

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?

 

Webメディアとの出会い

 中学の公民の授業で「メディア=媒体」と教えられたとき、「媒体...?なんじゃそりゃ?」と思ったのをよく覚えています。続けて先生が「まあ、テレビとか新聞とかやな」と言い、そのときなんとなくわかったような気がしました。

 ところが、その授業の翌週くらいに「マスメディア」という言葉が出てきたときに、メディアとマスメディアのちがいってなんだろう?と思い、ますます「メディアってなんだろう?」と思っていました。

 

 大学3年生のときにインターンを始めたこともあり、課題や調べ物が多くなったので、インターネットをよく使うようになりました。そのときに、多くのWebメディアがインターネットの世界にあることを知りました。特に「オルタナS」と「greenz」にはお世話になったものです。環境問題の記事や社会起業家のインタビューの記事をたくさん読んで、よくブックマークしていました。

 たぶんそのころくらいからメディアに対して興味を持ったんだと思います。「記事を書くことっておもしろいなぁ」とか「世の中にはいろんな人がいるんだなぁ」と。そんなことをしていると、今度は記事を見ているだけでは物足りなくなり、自分でブログを書いてみたり、インタビューを始めたりしました。

 思えば中学生のときにメディアに対して疑問を持ち、大学生になって、Webメディアを知り、実際にそれらに触れ、メディアというものを肌感覚で覚えていったのかなぁとおもいます。

東洋経済オンラインを5000万PV超えるメディアにした敏腕編集長

 本書の著者である佐々木紀彦さんは、東洋経済オンラインをリニューアル後、たった4ヶ月で5301万PVを記録し、同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に輝かせました(当時東洋経済オンラインは全く盛り上がってなかった)。

 この本の見どころは佐々木さん自身がメディアを運営するプレイヤーであり、メディアの専門家であるところ。ちなみに佐々木さんは、2014年の5月に東洋経済からニュースアプリ「NewsPicks」の編集長に就任することになり、メディア業界を一層に賑わせました。

Webメディアはなぜ稼げないのか?

 本書は既存の新聞や雑誌など紙のメディアについてだけでなく、Webメディアについても詳しく書かれています。そもそもなぜWebメディアは稼ぐことが難しいと言われているのでしょうか?

 そのひとつの理由として、Web広告収入の伸び悩みが挙げられています。しかも、Web広告に関して米メディア業界では、「1:10:100」の法則があると言われており、これは、紙で100万円だった広告が、オンラインでは10万円になり、モバイルでは1万円となってしまうことを皮肉ったもの。それくらいWeb広告の単価は低いわけです。また、Web広告の単価が低い理由について、本書ではこう述べられています。

 ひとつ目の理由は、需給バランスです。一言で言えば、広告ニーズに対して、広告枠(コンテンツ)が過剰なのです。Web上には、紙とは違い、ほぼ無制限にページ数があります。それに対して、広告を出したがるクライアントの数にはかぎりがあります。供給が無制限にある一方、需要が一定しかないのであれば、値段が落ちるのは自然の理です。

 

 2つ目の理由は、巨大テクノロジー企業の存在です。紙の広告マーケットにおいて、メディア企業のライバルとなるのは、他のメディア企業ぐらいでした。しかし、オンラインの世界では、グーグル、フェイスブック、ヤフー、マイクロソフト、AOLといったテクノロジー業界の巨人と競り合わなければならないのです。

 ふむふむ。つまり広告を出せる場が増えたため、広告費が安くなり、しかも、グーグルやフェイスブックなどの強豪プレイヤーがWeb広告のシェアをたくさん握っているわけだ。

過去100年、メディア企業は、「紙」の世界というプレイヤーがかぎられた場所で優雅な生活を送り、過大な利益に与かることができました。ところが、その安寧はデジタル化により破られ、巨大なテクノロジー企業が牛耳る苛烈なマーケットに引きずり出されてしまったのです。いうならば、Jリーグのサッカーチームが、ある日突然、世界のビッグクラブが集う欧州チャンピオンズリーグに参加させられるようなものです。 

日本のWebメディアの現状

 では、日本のWebメディアの現状はどのようになっているのでしょうか?日本のWebメディアでPVとブランド力と収益力を兼ね備えたものは、「ヤフーニュース」と「日経新聞オンライン」です。ヤフーニュースに関しては、月間100億PVを超えているので、広告単価が高い。そして、日経新聞は、有料会員制(1ヶ月に10個の記事を無料で読める。それ以上は有料)で、会員数は30万人を超えると言われ、月の課金収入は6億円超と推計されています。それ以外のWebメディアはどこも苦戦を強いられているのが現状だそうです。

海外のWebメディアの現状

 海外のWebメディアも多くのところが苦しんでいます。英国の日刊新聞であるフィナンシャル・タイムズは、2007年まで広告料収入の低下などによって苦しんでしましたが、2008年から購読料収入を順調に伸ばしたことがきっかけとなり、大きく成長しました。この購読料収入アップの牽引役となったのが、メーター制の導入。メーター制とは、ウェブ上での有料課金システムの一種で、無料と有料をうまく組み合わせたモデルです。

①1か月間に一定本数(たとえば10本だけ)無料で記事を読める。

②一定本数を超えた場合、有料会員にならないと、それ以上の本数を読めない。

③有料会員になれば、あとは読み放題。100本でも1000本でも読める。

検索エンジンソーシャルメディア経由で拡散された記事は無料で読み放題

⑤デジタル版の有料会員の料金は、紙の購読料金よりも安いケースが多い 

 メーター制とは、このような特徴があります。「cakes」や「schoo」もこのメーター制のようなビジネスモデルをとっています。

 とまあ、海外のメディア事情から、国内のメディア事情まで詳しく書かれているので、ウェブメディアに携わるひとならば、必見の一冊となっています。よければ、ぜひ。