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【#191】10億を2年で使った社長《我が逃走 家入一真》

我が逃走

我が逃走

 

内容(「BOOK」データベースより)

ひきこもりから瞬く間に「IT長者」へ―驚愕のロングセラー『こんな僕でも社長になれた』を凌ぐ、その後の転落・逃亡・孤立を巡るどん底物語と、都知事選の裏側、そして“いま”を克明に描く衝撃作、満を持して刊行!!

感想

家入さんの著書、読みました。前作の自伝「こんな僕でも社長になれた」の続編。前作は自身でつくった会社ペパボをGMOM&Aしたところで終わっていたので、つづきが気になっていた。

M&Aしたときに得た数億円を飲み代で使い果たした話や、カフェ事業を立ち上げるも上手くいかず、数千万円の赤字を出した家入さんの話は有名だ。それらの話は、数々のWebメディアのインタビューで語っている。もともと下戸だった家入さんがなぜ六本木で毎晩飲み歩くようになったのか、そもそもカフェ事業を立ち上げるきっかけはなんだったのか、そういった話をあますことなく知ることができる。

前作にくらべ、本書は登場人物がふえたような気がする。秘書の内山さん、ペパボの現社長である佐藤健太郎さん、元妻である明子さん、バーグハンバーグバーグのシモダさん。かれらとのエピソードがたびたび出てくる。

そのなかでも、現在も家入さんの秘書として活躍する内山さんが初めて家入さんの秘書として就任したときの話がすきだ。

内山さんは僕より年下で、秘書経験もまだ浅いとあって緊張しまくっているように見えた。さらに、僕の秘書になったことでいろいろと戸惑っているようだった。それもそのはず、僕が垣間見た前任のMさんからの引き継ぎはというと...

 

「アポイントの時間になっても社長(家入さん)が来なくて、電話をかけても出ない場合は、シモダさんに連絡すること」

「シモダさんですか?ご自宅ではなく?」

「仲がいいからそのほうが早いの」

「は、はい...」(中略)

 

終始、「もしも家入が来なかったら」を前提に繰り広げられる引き継ぎ。内山さんの不安が広がっていったに違いない。

待ち合わせ場所に来ないときに、シモダさんに連絡する理由もよくわからないし、そもそもなんで家入さんが来ないことを前提に話をつづけているんだというつっこみを入れたくなる(笑)。以前、「家入さんは遅刻はあたりまえで、むしろ遅刻せずにくるのがすごいんだ」と思うような空気感を会社につくろうとしていたと、Webの記事でペパボの現社長である佐藤健太郎さんが言っていたんだけど、もうこのときはすでにそんな空気は出来上がっていたんだろう。

こういう笑えるエピソードもあれば、一方ですこし胸が痛くなるエピソードもある。家入さんがカフェ事業を立ち上げ、経営が苦しくなり、毎晩のように六本木で飲み歩き、手元にほとんどお金がない状況のときに、佐藤さんから一通のメールが届く。

資金繰りに奔走するある日、ケンタロ(佐藤健太郎)から一通のメールが届いた。件名は「お疲れさまです」。嫌な予感がした。

なんとなく、直感で、何が書いてあるのかわかるような気がした。これまで目を背けてきた現実がやってきたに違いなかった。とはいえ消去することもできずメールを未読のまま受信フォルダに残し、数週間が過ぎた。(中略)

そんなある日、ルノアールへやってきた内山さんが、いつものように確認事項を読み上げた。

「社長、ケンタロさんからメールを見るようにと連絡がありましたが、ケンタロさんからのメールは届いていますか?」

「...あ、う、うん」

「受信されてますね?急ぎのご用件かもしれませんから、すぐにご覧になってください」

急かされるまま、スマホを取り出して受信フォルダに目をやった。ついにこのときが来てしまった...。内山さんの視線がじりじりと突き刺さる中、僕は覚悟を決めてその未読メールを開封した。

 

<ペパボを、ご勇退していただけませんでしょうか>

 

やっぱり。僕はわかっていた。役員に名を連ねる僕があちこちで散財し、そのたびにペパボの株を売り続ける状況が、ペパボにとってどれだけダメージになることか。2010年3月に代表取締役CCOを辞任してから、僕はいち取締役としてペパボに在籍していた。すでに、代表権はないとはいえ、世間はそんなに細かいことまでわかりはしない。「家入=ペパボ」という図式は依然として健在で、僕が何かをやらかせば「ペパボの家入が」と言われるに違いなかったし、そのときにペパボが被る影響ははかり知れなかった。

こうして、2011年の3月、家入さんがロリポップをつくってちょうど10年目になったときに、家入さんはペパボを退任した。 自分のつくった会社を不本意なかたちで辞めざるえないのは、とても辛い。しかも、このときカフェ事業の方は大赤字で、家入さん自身、先の見通しがまったく見えていない時期だった。

その後の家入さんはというと、クラウドファンディングのキャンプファイヤーをつくったり、リバティを立ち上げたり、都知事選に立候補したりと、立ち直っていく。そんな家入さんと現在一緒に仕事をしているベンチャー投資家である松山大河さんは、家入さんの人物像をこう語る。

まず、家入一真という人は、有料課金サービスで会員数数百万人を達成した、日本でも数少ない経営者です。なぜか忘れられがちなことなのですが、これは家入さんを語るうえで非常に重要なトピックです、サービス開始後、初月から黒字だったというのも、彼の経営スキルの高さを物語っています。

さらに、地方から生まれたベンチャーであるという点も非常に珍しいといえます。有力なベンチャーは情報やお金の集中する場所、おもに「都市」から生まれるので、福岡の久留米から生まれた「ロリポップ!」の成功は非常に珍しい例なんです。ほかに地方から生まれた有力サービスは、京都発の「はてな」ぐらいでしょう。LINEもグリーも楽天も、ほかはみんな東京です。家入さんはというと、「ツイッターで炎上している、少し胡散臭い人」と見られがちな向きもあるかと思いますが、IT経営者として、じつは相当難しいことをやり遂げているんだと、僕は声を大にして言いたいですね。

最近の家入さんはというと、株式会社キメラを立ち上げ、なにやら新しいサービスを開発中だとか。そんな家入さんが次になにを起こすのか、ぼくはすごく楽しみだ。

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