読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

明石家さんまはおもしろくない。はたしてそれは本当か?《笑いの現場 ひょうきん族からM-1まで ラサール石井》

内容(アマゾンより)

ラサール石井が「コント赤信号」として歩んだ時代―それは現在のお笑い界の第一線にいる芸人たちとの競演の時代でもあった。修業時代に新宿ゴールデン街で飲み仲間だったとんねるずや、「オレたちひょうきん族」の楽屋で談議したビートたけし明石家さんま島田紳助ら。そこで熱く語られたのは、芸人として極めんとするそれぞれの笑いのスタイルについてだった。コント赤信号で歩いた時代を描く「ノンフィクション編」と、芸人それぞれの笑いを解説する「評論編」 の2部構成で、お笑いの真髄を描く。

感想

第一部では、バラエティの歴史を。第二部では、芸人の批評をラサール石井さんが余すことなく語っている。これ一冊でバラエティの世界がどういう道すじをたどってきたかがわかる。

バラエティの歴史に関してそんなに興味がなかったので、さらっと読み、M-1について書かれたところはじっくりと読んだ(M-1世代だしね)。M-1での審査員の点数のつけ方や審査員にしか知り得ない裏話などが書かれていておもしろかった。

たとえば、ラサールさんは2001年~2005年、2007年のM-1の審査員を務めたんだけど、審査員を進んで引き受けたというのは驚いた。というのも、M-1の審査員をお願いしにいくと多くのひとが嫌がり断るひとが多いからだ。

以前、さんまさんがある番組でお笑いは競争するものではないと発言していたんだけど、たぶん審査員の多くのひとがこういうスタンスをとっているんだとおもう。それに審査員をするということは、自分がどんな評価をくだすのかをお客さんに見られるわけだから、それはそれで大変なわけで。。

ちなみにこのさんまさんの発言の真意について、島田洋七さんがこう語っていた。

「ある程度売れた人を審査するのは失礼やけど、若手はええんちゃうん!?そうせんと誰をどう売っていいか、テレビ局も分からないよ。たぶん、さんまが言うてんのはそうやで。10年も20年もやってたヤツを点数付けるのは腹立つやろ」

ー引用ー B&Bの島田洋七が「M-1グランプリ」などお笑い賞レースの内情を力説 - ライブドアニュース

 

 

第二部ではラサールさんの玄人目線で、ビートたけし明石家さんま志村けんとんねるずダウンタウンらの芸について語ってくれるのがいい。素人にはわからない玄人だからこそ理解できるかれらの芸のすごさについてわかりやすく書かれていておもしろい。

明石家さんまという人は、文化人や業界人、つまりちょっと笑いにはうるさいぜといった職種の人たちには、意外に評価が低い。曰く、「これといった芸がない」「毒がない」「知性がない」「泥臭い」等々、理由はいくつかあるのだが、果たして本当にそうなのであろうか。(・・・)

たとえばたけしさんや、ダウンタウンの松本などは、客に対して平気で「おまえら馬鹿だなあ」とうそぶける。実際そう思っているかどうかは別として、それでもけっして客を怒らせることはない。客はそう言ってかえって喜んでる。わざと人の言わないようなことを言って客に挑戦する。(・・・)

さんまさんはけっしてこういう風には笑いをもっていかない。もちろんアイドルや女性客に対して「おまえらアホちゃうか」というツッコミはある。しかしそれはその時その場の客の状況が確かにそう言われるべきものであったからであって、確実にそれで笑いをとるためのことである。(・・・)

だから彼には芸に対する悩みとか、行き詰まりというものもない。ただ自分が面白いと思うことを好きでやっているだけだ。何よりも自分が大好きなのだ。自分のビデオを何度も見て「面白いやっちゃなあ」と笑っているというのは有名な話だ。

だから常に自然体であるその姿が、芸というものを感じさせないのかもしれない。そしてまたそういうことを感じさせることを、さんまさんは極端に嫌う。実はそのことが一番大事なのだが、けっして笑いの構造の外に出ることがない、というのがさんまさんのポリシーなのだ。

ラサールさんはいうまでもなく芸人だが、本書をよむとバラエティの評論家に向いているよなあとおもう。なぜなら、こうやってベテラン芸人の芸をていねいにわかりやすく説明できるからだ。それができるのも、B&B、ツービート、紳助竜介らが起こした漫才ブームのまっただなかに芸人として活躍し、一流であるかれらの芸を間近でみていたからだとおもう。

 

個人的にはベテラン芸人だけでなく、ブラマヨとかロンブーとか有吉とかいま活躍している40代の芸人の評論もしてほしかったなあと思ったりもした。てか、どっかで連載してくれないかな...

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