【#120】社会貢献でメシを食う 米倉誠一郎
- 作者: 竹井 善昭,米倉誠一郎
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/09/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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はじめに
ソーシャルビジネスの世界に身を投じている者で、米倉誠一郎の名を知らぬ人はいないだろう。一橋大学の現教授であり、税所篤快さんとソマリランドで新たなビジネスを仕掛けているソーシャルビジネスの第一人者だ。
僕は1年前の夏のイベント、「世界を変える100人になろう」で米倉さんの存在を知った。このイベントは、将来海外で働きたいという想いを持つ者やソーシャルビジネスに身を投じたい者が集まり、チームに分かれ、企業が出すお題に対してビジネスプランを3日間で立てるビジネスコンテストだ。審査員として、米倉さんも名を連ねていた。
米倉さんを初めて目にした時のことをよく覚えている。真夏にも関わらず、ジャケットにネクタイを締め、下は短パンにロングソックス。「すんげぇ人だなぁ」と思ったのが第一印象でした。
概要と感想
この本はソーシャルビジネスを知るためのガイドブックのようなもの。全6章で構成されています。第一章では、 「社会貢献ブームが若者の間で起きている」ということから始まる。その事例として、"マジでガチなボランティア"や"ピースボート"、"Sweet Smile"などを取り上げ、そのブームを読み解き、社会貢献の定義や社会貢献を仕事する上での大切なことが書かれている。
ビジネスを生み出すためには、ふたつのことが必要だ。社会のニーズを見出すことと、そのニーズを満たすためのビジネス・モデルを生み出すことだ。たとえば国際協力の世界における「貧困」の撲滅。世界には一日一ドルや二ドルで生活している人たちが40億人くらいいて、この人たちは「貧困層」として定義されている。しかし、実際には低所得者=貧困層ではない。
たしかに彼らは物質的には貧しいが、豊かな自然に恵まれていることもある。スマートフォンやゲーム機は買えないし、インターネットはおろかテレビさえない。しかし、田畑には食うには足る農作物が実り、近くの川では食うに足る魚が捕れる。そして、昔からのコミュニティが成立していて、人々はシアワセに暮らしている。これは本当に「貧困」なのだろうか?
貧困を「問題」として捉えること。これは、経済先進国の人間の感情だ。社会問題は、ニーズとして捉える必要がある。貧困とは低所得のことではなく、生きていくために必要な何かが欠乏していることを意味する。この「欠乏」がニーズだ。たとえば、大量の餓死者が出るほどに食料が欠乏している。これが食料に対するニーズだ。
第二章では、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスやRoom to Readのジョン・ウッドなど世界に名を轟かす社会起業家のみならず、日本のフローレンスの駒崎さんやTFTの小暮さん、コフレプロジェクトの向田舞衣さんなどが取り上げられている。その中の一人、温井和佳奈(ぬくいわかな)さんのことを初めて知った。
アジアの文化は概ね、おおらかなものだ。人としてはつきあいやすい。しかし、おおらかな文化の人たちは、仕事もおおらかだ。時間もおおらかだが、仕上げについてもおおらかだ。一方、日本人というのは世界一、品質に厳しい。アジアの国で日本向けの所品をつくるには、その要求水準を満たすために、現地の人たちを教育する必要がある。
しかし、それは現地の人たちをシアワセにすることだろうか。厳密な日本基準を満たす作業は、マジメで勤勉な日本人がやればいいのではないか。アジアの女性は、その特性を活かした仕事を提供したほうが、彼女たちもシアワセになれるし、自分たちの事業もうまくいくのではないか。それが温井の発想だった。そして、アンコールワットを訪ねた温井はひらめいた。「これほどすばらしい世界遺産をつくれる人たちには、すばらしい美的感覚を持っているはずだ」
こうして途上国の女性をデザイナーにして、その製品を先進国でつくるという取り組みに着手した。
第三章では、NPOやNGOで働くこと、またその実態などを取り扱い、第四章ではCSRを主に取り上げている。
1983年、ニューヨークの「自由の女神」を修復するために、アメックスは一大キャンペーンを行う。新しくカード会員になれば一ドル。カードを使えば一セント。自由の女神の修復のために寄付されるというプログラムで、これは大きな反響を呼び、三ヶ月で総額170万ドルが修復のために寄付された。
それが至上初のコーズ・マーケティングだ。このコーズ・マーケティングの歴史はここから始まったのだ。
そして、第五章ではプロボノについて書かれており、第六章でまとめという概要になっている。ソーシャルビジネスを始めるまえに知っておくべき知識や心得がこの本にはたくさん詰まっているので、ぜひ。