読書めも

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企業は人間のドロドロの掃き溜めだ《七つの会議 池井戸潤》

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)

 

ぼくの母はガーデニングがすきで、実家の庭にはパンジーやらユリといった花が咲いている。還暦をむかえたこともあって、最近は庭の手入れがおろそかになっているそうだが、土日は父が手入れをしてなんとかやっているみたいだ。

母はむかしからガーデニングが趣味だから、庭の手入れをするのはわかる。しかし、父が庭いじりを好きだとは一度も聞いたことがない。そもそも母が庭の手入れをしてくれと頼んだわけでもなく、父が勝手にやっているらしい。草ぬきやら水やりなど黙々とやっている。

たしか中学生くらいのときだったと思う。そんな様子を不思議に思い、母に聞いたことがある。「なんで父さんは休みの日に、めんどくさい庭の手入れをやってるの?」と。

すると母はこう答えた。「お父さんみたいに会社員をやっていると、人間の汚い部分とかドロドロしたものが見えちゃうのよ。だから、こうやって頭をからっぽにできる作業がすきなのよ」と。どうやら会社というところは大変な場所らしい、と中学生ながらに思ったものである。

 

池井戸潤さんの『七つの会議』を読んだ。池井戸さんといえば、ドラマの半沢直樹の原作を手がけたことで有名だ。半沢直樹と七つの会議は話が似ている。半沢直樹は企業のなかで起こる理不尽な出来事に立ち向かうサラリーマンの姿を中心に描いた話だ。

一方で『七つの会議』は半沢直樹よりトーンは重めだ。半沢直樹のように企業の不祥事を取りあげている点は同じだが、『七つの会議』では主人公はいない。あらすじを見ると、主人公は原島課長のように見えるがちがう。

 

トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を"パワハラ"車内委員会に訴えたのは、年上の万年係長・八角だったーー。

いったい坂戸と八角の間に何があったのか?パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。どこでもありそうな中堅メーカー・東京建電とだが、そこには誰も知らない秘密があった。

 

出世のために会社に魂を売る者、上司の足をむやみに引っ張ろうとする者、自分の保身のために同僚を裏切る者、様々な人間が登場する。そして、そのほとんどが40代〜50代の人間で、ある程度のポストに就いた者たちだ。ここまでとは言わないが、七つの会議に描かれているようなものはどこの企業でもあるのだろう。

企業の闇と人間のドロドロを描いたこの小説。もしあなたが「おれは会社員になって、バリバリ働くんだ!」という志をもっているならば、この本は決して読んではいけない。なぜなら、本書には会社に対する希望は愚か、絶望しか描かれていないのだから。

 


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