読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

アダルトビデオの向こう側《AV男優の流儀 鈴木おさむ》

AV男優の流儀 (扶桑社新書)

AV男優の流儀 (扶桑社新書)

 

内容紹介(アマゾンより)

鈴木おさむが直にAV男優・監督の声を聞くため、森林原人、しみけん、島袋浩といった人気男優からカンパニー松尾監督までに対談取材を敢行した。その時の模様は雑誌『SPA! 』で短期集中連載されたが、紙幅の都合からその魅力すべてを伝えることができなかったため、新書として全面加筆。
この本のために安達かおる監督にも取材を行った。笑いあり、涙ありの熱いトークバトルを濃縮した一冊に仕上がっている。題材はAVながら、仕事や人生に役立つ名言が詰まった珠玉の対談集、ここに完成!

登場人物
森林原人(もりばやし・げんじん)
1979年生まれ。“東大予備校"と呼ばれる名門校、筑波大学附属駒場中学校・高校を卒業後、進学した専修大学を中退しAVの世界に飛び込んだ異端児。 20歳で汁男優から始め、今や1日複数の現場を掛け持つ業界トップの売れっ子男優に。AV男優の仕事が親バレしかけた際には、両親に「どんな宗教に入ったんだ」と詰問された。撮影現場でもプライベートでのセックスと同じくらい没頭できるのが最大の武器。ファッションに造詣が深いおしゃれ男優でもある。経験人数は7200人。

しみけん
1979年生まれ。高校卒業後、当時ゲイ雑誌の編集者だったマツコ・デラックス氏の後押しを受け、ゲイ作品でデビュー。フェチものを得意としながらもナンパもので頭角を現し、今や単体女優の“開幕戦"に登板するなど業界きってのイケメン人気男優に。AV男優以外でもボディビル大会で入賞したり、テレビのク イズ番組で優勝するなどマルチな才能を発揮する。経験人数は武道館満席間近の7500人。

島袋浩
1966年生まれ。高校卒業後、ホストやショーパブなどの水商売を経て、20歳でAV男優デビュー。軽妙なトークと安定感のある〝魅せるプレイ〟で人気男優に。特にナンパものでその才能を発揮し、若いファンから「兄貴」と慕われ、「AV界のナンパの帝王」と呼ばれるまでに。現在はAV制作会社を立ち上げ監督業も務める。経験人数は推定6000人。

カンパニー松尾
1965年生まれ。1987年、テレビ制作会社の倒産を機に、V&Rプランニング入社。この時、まだ童貞だったという。翌年に監督デビュー。ハンディカムを片手に“ハメ撮り"を開始。女性の下着を完全に脱がさず挿入する“着衣ハメ"を好む。 1996年、V&Rを退社し、フリーとなり、2003年には「HMJM」を立ち上げる。代表作として劇場版が異例のヒットとなっている「テレクラ キャノンボール」、「私を女優にして下さい」など

安達かおる
1952年生まれ。東京都出身のAV監督。1986年、後にカンパニー松尾氏やバクシーシ山下氏といった鬼才を多数輩出する異色にして名門メーカー、 V&Rプランニングを立ち上げる。美少女系AV全盛期の時代にSM、スカトロなどの過激作品をリリースし続け、「鬼のドキュメンタリスト」の異名をとる。

感想

芸人の森三中、大島さんの旦那である構成作家鈴木おさむさんが手がけた本、「AV男優の流儀」を読んだ。

性産業に携わるひとというと、黒服のコワイひとやお金のために必死で稼ぐダークな女性のイメージがあるのだけど、本書に登場する5名はそんなことはない。あかるく、開放的な空気を身にまとったひとびとだ。とくに、現役の男優である森林原人さんとしみけんさんはとびぬけてあかるい。

そして、自分の仕事に対して情熱をかけてやっている。森林さんにいたっては、生まれ変わってもAV男優になるというくらいなのだから。

一方で、この仕事が誇れるものではなくとてもシビアなものだというひともいる。現在AV監督として活躍しているカンパニー松尾さんだ。

松尾:たとえば家族の問題。子どもに対してどう説明するかという部分とかね。僕も子どもが小学生の低学年ぐらいの頃は仕事を聞かれてもテキトーに「カメラマンだよ」なんて言ってたんです。

でも、中高生とかになったら「どんなカメラマンなの?」、「何を撮ってるの?」って聞きたくなりますよね、普通。でも聞かれたら困るから、家では仕事のことは極力触れない。もう気付いてもおかしくない年頃ですよ。もし気づいてくれてて、僕に気を使ってるだけなら逆に見せたいものもあるんです。AVじゃなくて。

幼い頃の子どもをムービーで撮ってて、それをPV風にまとめてるんです。本当はそれを見せてあげたいんですよ。子どもの反応も見たいんです。「おとうさんは映像の仕事をやってたんだよ」って言いたい。でも、まだ言えないんです。

鈴木:なるほど。これは対談した方全員に聞いてるんですけど、もしV&Rさんに入る前にタイムスリップしたとして、もう一回、この業界に入りますか?

松尾:それは入ります。AV監督になります。

鈴木:おぉ!それはこの仕事が好きだからですか?

松尾:こんなイイ仕事はないと思ってます。誰かに誇れる仕事ではないですよ。どこかでやっぱり恥だと思ってる。でも、僕の性格からすると、それだから続けられている面もあるんです。皆に評価されたり、「松尾さんってすごい監督だね!」って社会的に評価されたいからやってるわけでもないし、そんなことは望んでない。「これは男同士の話なんだけど」って一部でコッソリ交わされる会話の中に僕の名前が出てくるような感じがいい。サングラスを外せないような恥の部分も含めて、僕にとって最高の仕事だと思っています。

 

そして、本書は内容だけでなく、構成の仕方もいい。対談のあとに、鈴木おさむの編集後記的なコーナーが毎回数ページあるんだけど、これが個人的には気に入っている。編集後記的なものなので、おさむさんが対談で感じたことがかかれているのだけど、この鈴木おさむの視点がおもしろい。

森林さんの話で忘れられないのは、AVの世界には入りたくて、セックスしたくて仕方がなかった森林さんに、こんな質問をぶつけたときのこと。

「AVの中でするセックスは気持ちいいのか?」

そう聞くと、森林さんは僕の目をまっすぐ見つめながら、「鈴木さん、セックスしてるんですよ。気持ちいいです」と言い切ったのです。

もし僕が誰かに「テレビの仕事って面白いですか?」と聞かれたら、森林さんのようにまっすぐ相手の目を見て、「テレビ作ってるんですよ。面白いに決まってるでしょ」とは言い切れない自分がいる。まさに森林さんにとってAV男優は天職なんでしょう。

対談でざっくばらんに話をして、対談の後の数ページの編集後記できっちりとクロージングをすることで、本から感じたことや得たものが自分のなかにのこりやすい。最近おもうことなんだけど、対談やインタビュー形式をベースにした本は、すらすら読めるし、なによりお手軽だ。

でも、軽いがゆえに自分のなかで実感をもつことがむずかしい。だから、読み終えたあとに自分のなかに何ものこってなかったり、忘れていることがほとんどだ。これは、広がった知識をしっかりとクロージングしていないからだとおもう。だからこそ、この編集後記はぼくにとってすごく興味深いものだった。