読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

サクリファイス 近藤史恵

ロードレース

一見個人競技に思えるこのスポーツ、じつは団体競技だ。たったひとりのエースを勝たせるために、数人のアシストと呼ばれる選手がエースの風よけとなる。こうすることで空気抵抗が大きく軽減され、エースは半分以下の力で走ることができる。

アシストは勝負どころまでいかにエースの力を温存させるかが重要で、自己犠牲が伴う役割である。どれだけアシストとしていい仕事をしても、記録に残るのはエースだけ。自分がいい記録を残したいと思っても、アシストはエースのためにすべてを捧げなければならない。

勝つことを期待されるエースとただエースのために働くことを期待されるアシスト。残酷だが、アシストはエースに勝利を託すしかない。

 

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)

 

 

本書の主人公である白石誓は、チーム・オッジに所属するロードレーサーだ。峠を得意とするクライマーであり、チーム・オッジにかかせない優秀なアシストだ。勝利に対して執着心がなく、与えられた仕事を粛々とこなす彼にとって、まさに適したポジションと言えるだろう。

物語序盤に白石は、チーム・オッジのエースであり日本を代表する選手でもある石尾豪が過去に優秀な選手を潰したという噂を耳にする。ミステリー特有の不穏な空気がここから漂いはじめる。ライバルとの駆け引き、かつての恋人との再会、チーム内に漂う不穏な空気ーー

扱う題材はロードレースだが、本書のジャンルはミステリー。「えっ?スポーツなのにミステリーってどういうこと??」と思うかもしれない。しかし、読み進めることできっと納得する。

そして、読み終えたあなたは、主人公が最後に発する言葉にきっと共感するだろう。「勝利は、ひとりだけのものじゃないんだ」という言葉にね。

 

サクリファイス 1 (ヤングチャンピオンコミックス)

サクリファイス 1 (ヤングチャンピオンコミックス)