読書めも

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【書評】OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語 佐藤芳之

 サブタイトル通りだなぁとおもった一冊でした。"世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語"、まさにそれ。外国人に「日本にはこんな偉大なビジネスマンがいるんやで!」って伝えたくなるひとの物語がつまっていました。

75歳でもなおルワンダで挑戦し続ける

 著者の佐藤芳之さんは、元ケニア・ナッツ・カンパニーの社長であり、現在75歳。ケニアが育てた100万人のグランパと呼ばれる偉大なひとです。日本で70歳を超えてもなお企業のトップとして走り続ける経営者は何人か知っていました。たとえば、京セラの稲盛さんやブックオフの会長だった坂本さん、大和ハウス会長の樋口さんなどなど。でも、海外でこの年齢でなおビジネスのトップランナーとして走りつづける経営者の存在は知りませんでした。しかも、佐藤さんはケニア・ナッツ・カンパニーを68歳のときに現地のケニア人パートナーに譲り渡している。そして、挑戦する舞台をケニアからルワンダに移し、オーガニック・ソリューションズ・ルワンダを設立しました。

タダ同然で自分の会社をケニア人に譲った理由

 佐藤さんについて語る上で欠かせないエピソードがあります。それは、ケニア・ナッツ・カンパニーをタダ同然で手放した話。そもそも、ケニア・ナッツ・カンパニーは4000人を超える企業で年商は30億円、アフリカ有数の加工食品メーカーであり、世界のマカダミアナッツ業界でも第五位の規模を誇っています。その企業の株を1株だけ手元に残して、ケニア人のパートナーに譲りました。しかもケニア・ナッツ・カンパニーの売り上げと利益は安定していたにもかかわらずだそのことを佐藤さんはこのように語っていました。

 外から来た人間がアフリカで興した事業は、ゆくゆくはアフリカの人びとのものになるべきです。ケニア・ナッツ・カンパニーについても、私たち日本人は、自分たちの役割をある程度終えたら去るべきだと思っていました。

 

日本人が日本式経営でやっていると、そこから脱却できません。ケニア人が自分たちのスタイルでやってみて、たとえ失敗して潰れても、植えた木は残るだろう。オーナーが代わっても、木は実をみのらせ続けるだろうと考えました。

 

大事なのは、落ちた実を加工して儲けることではなく、木と産業を残すことなのですから。

 

かつての日本も同じような経過を経て自立していったのです。明治時代に外国からいろいろな人が来て、指導をし、日本の人びとが自分たちでやれるようになると、みんな去っていきました。

 

役割が終わったらよそ者は去る、それが基本なのです。

 なるほどなぁ。外から来た者は国籍を取るくらいの覚悟を持っていないと、所詮はよそ者。だからその場をサッと立ち去ることが佐藤さんのケニアに対する礼儀だったのかもしれません。

佐藤さんにとって大切なパートナーの存在

 佐藤さんは27歳のときにお見合いをし、28歳のときには奥さんと一緒にケニアで暮らし始めます。暮らし始めて奥さんからこう言われます。

「最初にきちんと言っておきますけど、世の中に男の人はあなた一人じゃありません。私をあなたのものとは思わないでください。』 

 どうやら奥さんは佐藤さんに対してクギを刺したようです。そのときのことをこう語っていました。

私にはあなたしかいないのと言われると、負担になるでしょう。男性は他にもいっぱいいるのだから、もしあなたが気に入らなくなれば、私は別の人のところへ行く。私たちはたまたまタイミングが合って一緒になったのだから、お互いルールを守りながら、せいぜい仲良くやりましょうね... ... 

 

要はクギを刺されたのです。これは今思えば相当効果的でした。この人にどこかへ行ってしまわれると困る。この人を大事にしなくては、と私は思いましたから。

 とってもサバサバした奥さんですよねー。ちなみに本書で何度も奥さんのお話がでてきますが、どれもおもしろい話。奥さんが佐藤さんにとっての原動力のひとつなのかもしれませんね。

吹き渡る風のように

 2008年佐藤さんがケニア・ナッツ・カンパニーを離れる日、社員のなかには「佐藤さん、ずっといてくださいよ」と泣いて止めたひともいたそうです。それは創業時の苦労を知っている社員もまだ多くいたから。

 でも佐藤さんはこう言いました。「佐藤のことは忘れてくれ。もう佐藤は役割を終えたんだ。あとは新しい人たちでやるのだ」と。しかも、パーティーも、記念品贈呈も、スピーチも一切やらなかったそうです。そのときのことをこのように言っていました。

自分の役割を規定して、その役割を果たしたら、だらだら居座らず、スッと立ち去ること。そこに美学を求めよう。そして、私は次にやるべきことに向かうんだと。

 

ケニアを去って、今度はルワンダへ。その次はジンバブエへ。途中にちょっとアメリカも見てくるか。モンゴルも気になるぞ。そういうふうに、地球上を吹き渡る風みたいな感じで、その土地その土地にやりがい、生きがいを見つけて、粋な感じを自分のなかに持って別れたらいいと思います。

  「佐藤さん、かっけー。。。おれもそんなふうになりたい!」と言いたいところだけど、「とはいえ.. ...むずかしいっす、佐藤さん」というのが正直なところ。こういうことができるのが佐藤芳之であり、そこが魅力のひとつなのかもしれません。

 僕たちの先を歩く先輩として尊敬できるひとであり、同じ日本人として世界に誇れる日本人だとおもいました。