読書めも

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【#114】99%ありがとう ALSにも奪えないもの

99%ありがとう ALSにも奪えないもの (一般書)

99%ありがとう ALSにも奪えないもの (一般書)

 

 今年の夏ごろに話題となった「アイスバケツチャレンジ」。これはALS(筋萎縮性側索硬化症)協会への寄付呼びかけのムーブメントだ。ALSとは、筋肉が萎縮してしまい最終的には身体が動かなくなってしまう難病。現在完治する方法がなく、病気の進行を遅らせるしか治療法は見つかっていない。

 著者の藤田正裕さん(以下ヒロさん)は、マッキャンエリクソンで働く広告プランナー。ところが2010年にALSと診断される。そのとき30代に入ったばっかり。広告プランナーとしてこれからバリバリ働く予定だったのだとおもう。いまはもう「顔と左手の人差し指しか動かない」とヒロさんは言う。

 ALSの進行は速く、発症から3年〜5年ほどで呼吸すら自分で行うことができなくなるという(ヒロさんも自発呼吸ができないので、気管切開して呼吸器をつけている)。この気管切開をするときのことについて本書ではこう書かれている。

自発呼吸ができなくなっても、気管切開すれば、事故がないかぎり、10年も20年も生き続けられる。だが、その間のALSの進行は止まらない。途中、諦めたくても、一度気管切開したら、はずすことは法律上認められていない。

そのため約70%のALS患者は、気管切開しないで「死」を選ぶ。恐怖はもちろん、周りへの金銭的、精神的、身体的な負担・迷惑を怖れてのことだと聞く。

もし、途中で呼吸器をはずす選択肢が認められれば、ほぼ全員、気管切開するのではないでしょうか?

ということは、今の法律、人を殺していませんか?もっと父親と「会話」したかった娘...母親の手を握ってあげたかった息子...この法律で無理な選択を迫られ、無念。法律、規制に化けてる雑人、残酷すぎます。

 現在の日本の法律だと、人工呼吸器を外すと殺人罪に問われることがあります。たとえ本人の同意があっても嘱託殺人罪(しょくたくさつじん)に当たる恐れがあると言われています。

 そもそもなぜ呼吸器を外してはいけないのか?一つの理由に、尊厳死が法制化されることで、患者が次々と死の淵に立たされるかもしれないという恐れがあるから。つまり、適切な治療を行えば助かる命も、医療行為を何もしないことが良いことのように思われてしまう可能性があるわけです。また、時に人間は絶望に陥ることもあるが、人の気持ちは揺れ動くもの。絶望から希望に動くことだって十分にありえる。ならば、絶望の淵に陥ってしまったときに「死」という決着のつけかたは乱暴すぎるという考え方は納得できる。

 そう考えると、ヒロさんの考え方もわかるし、尊厳死を法制化しないような動きの考え方もわかるわけで、すこし口を閉ざしてしまうのが正直なところです。

 

 

この本はノンフィクションというよりも、ヒロさんの日記です。

これは「本」というより、僕の人生の短い「日記」。ALS前と後の、ある日、ある出来事、ある思いを、なるべく素直に記してある。(p.6)

読み進めていくとわかるのだが、心の中の叫びがきこえてくるような気がする。

あなたにこれを経験してもらいたいとは少しも思わない。ただ、あなたも捕まったとしたら、これをたまに言いたくなる気持ち、わかると思う。

おまえとおまえのつまんねー生活の愚痴や言い訳、もう数々......正直、クソくらえ。 おまえにはその状況をどうにかする選択肢があるからこそ、その愚痴や言い訳を吐ける。その出来事に参加することさえ取り上げられたとき、さっきまで愚痴っていたことがありがたいことに聞こえてくるはずだよ。

選択肢があるならペラペラしゃべってねーで黙って解決しろよ! タコ

ダメだ。俺、メッチャ嫉妬してる......

 

 ALSと闘うヒロさんの心の叫びだからこそ、読み手にひびいてくるものがあるとおもう。ALSと向き合うことがどれだけたいへんなことかが伝わってくる。

 

僕と会話するには口パクを読まなきゃならない。面白い経験。完璧に読み取れる人もいる。信じられないほどランダムな人もいる。

聞こえているフリをする人、必死な人、自分がキキタイことしか聞こえない人、逆に訊きたくないことしか聞こえない人、超時間かかる人、ただ手を握る人。

イライラする?当たり前。

けど、あなたに対してじゃないことは覚えてほしい。

病気と闘いの一環なだけ。

 この書評を書いている途中で知ったのだが、最近ALSの治療に成功した事例が海外で出てきたらしい。まだ完治とはいえる段階ではないそうだが、ALSに関わる人にとっていい兆しであることなのはまちがいない。ヒロさんはブログもやっているので、興味がある方はぜひ。