読書めも

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だれもしらないインドの秘密《レンタルチャイルド-神に弄ばれる貧しき子供たち 石井光太》

レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち (新潮文庫)

レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち (新潮文庫)

 

 読了後、ずっしりとした重いものが下腹部に残った。それは、この本に登場した人物に感情移入したからだろう。本書には、それくらい魅きつけられるキャラクターがたくさん登場していた。自らの目を傷つけてまで仲間を守ろうとするラジャ、重病であるサジを看病するムニ、ヒステリックおばさんだけど、なんだか憎めないスマン。魅力的なキャラクターが多いのだけど、彼らの現状と未来が明るいものだと感じれなかったから、重いなにかが自分のなかに残っているのだと思う。

 

レンタルチャイルドとは?

 レンタルチャイルド、本のタイトルに魅かれて読みました。「レンタルチャイルドってなんだろう?」ってね。その疑問は、はじめの数ページで解消された。

下町を一周すると、大通りへと出た。数百メートルおきにバス停が並んでおり 、朝早く目を覚ました老いた女乞食たちがすでに陣取っていた。集まってくる通勤客にシワだらけの手を差し出し、金をせびっているのである。奇妙なことに、みな六十歳を超えているにもかかわらず、乳飲み子を抱え、「どうか娘にミルクを買ってあげて下さい」と訴えている。

 

マノージが声を潜めて言った。「あれは、レンタルチャイルドだよ。(中略)この街じゃ、女乞食は赤ん坊を抱いている方が儲かる。倍から三倍は違ってくる。それで、彼女たちはどこかから生まれたての子を借りてくるんだが、中には金を払ってマフィアから誘拐されてきた子を借りてくることもあるっていう話だ。それがレンタルチャイルドなんだよ」

 著者はインドに滞在するうちにレンタルチャイルドの実態を次々と知ることになる。マフィアが子どもたちに物乞いをさせてお金を巻き取っていたり、その子どもたちの体を意図的に傷つけ物乞いをさせたり、幼い子どもに売春をさせたり。

子どもの体が傷だらけの理由

 ところで、なぜマフィアが子どもたちの体を意図的に傷つけるのだろうか?

 それは体が傷ついている子どもの方が周囲の一目につきやすく、十分な金を稼ぐことができるからだ。

「男は僕たちをボコボコに殴って、マフィアの家へつれていって、『稼げるようにしてやる』って、熱い熱いドロドロした油を顔にぶっかけたんだ。(中略)火傷した時、顔に血がたくさん流れていたから、道を通る人は、みんな、みんなパンを投げてくれた。お金も投げてくれた。でも、顔から血がなくなったら、かわいそうだと思ってもらえなくなり、パンもお金も少なくなったんだ」

レンタルチャイルドが生まれた背景

 そもそも、なぜこのようなレンタルチャイルドが生まれてしまったのか?本書に登場する貧民街の長老はこう答えている。

 長老:昔から、貧民街では、失業者たちが自分の子どもに物乞いをさせることがあった。ただ、中には子どもがおらん夫婦もいるだろ。そういう夫婦は、少しばかりの謝礼を払って別の夫婦から赤子を借りて物乞いをしておった。けど、彼らの中には根性のねじ曲がった悪者も少なからず交じっとる。連中は誰からも赤子を貸してもらえないため、自分たちで他所から子どもを誘拐して、物乞いをさせるようになった。そうすれば、いちいち金を払って人から借りる必要がないからな。こうしたことが積み重なって、今のマフィアの物乞いビジネスがあるんだよ。

 このように著者の石井さんは、人づてにレンタルチャイルドの現場に潜入してゆく。直接マフィアに、「なぜこのようなことをやっているのか?」と取材をしに行ったり、悪事を働く連中のところへ赴いたり。

 このひと何度か命落としても不思議じゃないと思ったシーンがいくつもあった。それくらいこの作品に思い入れがあったのかもしれない。身体を張ったこのノンフィクション、読んで損はないのではないだろう。