【#95】守護天使 上村佑
内容と感想
『日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞』宝島社が主催する日本で一番のラブストーリーを決めるコンテストです。
このコンテストでグランプリを受賞すると、作品が書籍化と映画化が約束されており、ラブストーリーをメインに書く小説家の登竜門となっています。
この本は、さえない50代のおっさんが、命を狙われる女子高生を守るために守護天使となろうと決心し、奮闘する物語です。
おっさんと女子高生と聞くとなんだか危険な香りがしますが、至って純愛のストーリーです。少しだけあらすじをご紹介します。
50歳になった須賀啓一は、鬼嫁勝子に一日500円の小遣いを貰い、家に帰っては子どもたちにバカにされ、仕事先でもこき使われる毎日。
そのたびに啓一が口にする魔法の言葉がある。
ーまあ、仕方ないー
そんな啓一の運命を変える出会いが訪れる。。。いつものように、赤羽駅の改札口に向かい、赤羽から会社のある横浜まで電車で移動しているときに、ある一人の女子高生と出会い、啓一は、その女子高生、宮野涼子に恋をする。
ところが、彼女の身に危険が迫っていることを知って、啓一は彼女の守護天使となることを決意し...?
純愛だけでなく、啓一の仲間とのドタバタ劇も読んでいて楽しかったです。作中に、啓一の仲間が2人登場します。
一人が、中学から付き合いがある目つきが悪くタバコをぷかぷか吸う、ヤクザまがいの村岡。
二人目が、啓一の勤め先で面倒を見ているひきこもりでイケメンのヤマト。
この2人と啓一でチームを結成し、宮野涼子を助けに行くわけですが、このでこぼこコンビのやりとりがすごくおもしろいです。
ちなみに、このチームが結成されたときにヤマトが心のなかで思ったこと。
ストーカーまがいのおやじ(啓一)と、性格の悪そうな元ヤクザおやじ。そして自分はリハビリ中の元ヒッキー(ひきこもり)。明るい未来が待っているとは、とても思えないチームだ。
啓一の恋の行方だけでなく、この3人のやりとりも注目しながらぜひ本をご覧ください。
また、本書の最後に、この作品が日本ラブストーリー大賞に選ばれた理由が書かれています。それも、日本ラブストーリーの選考委員全員。そこもこの本のみどころです。
読書メモ
1.関係ない。でも、俺の心が全力であの子を守れって言ってる
ヤマト:「こんなヤツ、ネットでいくらでもいるよ。メンヘラってやつ。好きでやってんだからさ、おじさんにカンケーないじゃん」
啓一:「ああ関係ない。でもあの子がどんな子だろうが、俺の心が全力であの子を守れって言ってる」
啓一はくわえていたタバコを、灰皿で乱暴に揉み潰した。ヤマトは大きなため息をついた。
ヤマト:「おじさんみたいになりたくねーな。なんかそんな恋って虚しすぎるじゃん。かっこわりーし。でもさ・・・・・」といって、ニカっと笑った。「しょうがねえから俺も協力するよ。なんでも」
2.人が生きるなんてカッコ悪いことばっかり。でも....
啓一はネットワークゲーム内からヤマトに接してきた。チャットの中でどんなにひどいことを言っても、無礼な態度をとっても、啓一はめげなかった。なんとみっともないおやじだろうと軽蔑したこともある。
そしてある日、凍りついた心が溶け出して、暖かいものが流れ始めていた。啓一のカッコ悪さに呆れたり、笑ったりしているうちに、人が生きるなんてカッコ悪いことばかりなのだと気がついた。それでも、ときには楽しいことや嬉しいことがある。きっとそれだけでも、生きていく理由になると啓一に教えられた。
3.大事な何かが、音もなく崩れさっていくのを感じた。
荒い息をつきながら、啓一は道にへたりこんだ。なにもできなかった・・・・。やはり、なにもできなかった。「やれるだけのことはやった。仕方ない、仕方ない、仕方ない・・・・・」魔法の呪文「まあ、仕方ない」を繰り返し唱えた。
しかし、魔法の力は消えてしまっていた。なぜか少女よりも、自分のことが哀れでならなかった。降りしきる雨のなか、啓一の中の大事な何かが、音もなく崩れさっていくのを感じた。
そのとき、啓一は少女の声を聞いた。その声は、はっきりと啓一の頭の中で聞こえたのだ。ーたすけて・・・・たすけて!
啓一は歯を食いしばり、立ち上がった。そして足を引きずりながら、猛然と渋谷駅に向かって走り出した。
いつも呪文のように「仕方ない、仕方ない」と唱え、何事も諦めることしかしてこなかった啓一が変わる瞬間です。自分の大事なもののために初めて一生懸命もがく啓一の姿が描かれています。すごく好きなシーン。