読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

【#58】僕はミドリムシで世界を救うことに決めましたーー東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦 出雲充

 

◎本書の内容と感想

2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナ代表取締役社長の出雲さんの書籍です。非常に読みやすく、面白かったです。まるで漫画のワンピースを読んでいるような感覚でした。

僕は、漫画のワンピースが好きですが、「この先どうなるの?」「次の展開はこうなるのかな?」とワクワクするシーンがたまらなく好きです。

ワンピースと同様に、出雲さんの行動がどういうことを引き起こすのかすごく気になります。この一年間ビジネス書を読みあさってきましたが、ベスト3に間違いなく入ります。

ビジネス書で自己啓発チックな内容でなく、その人の人生を追っかけた書籍のポイントは、『次の展開を考えさせないしかけを作ること』だと思います。次の展開を考えさせないしかけとは、一つの話題に読者の目がいかないようにさせる事です。例えば、ユーグレナは2006年までライブドアの出資を受けて会社を運営してきたというエピソードがあります。皆さんも知っての通り2006年にはライブドア事件があります。「あぁ、ライブドア事件があるから、ユーグレナはこうなるんじゃない?」と読者に想像させては、面白い本とは言えません。

ですが、この本は想像させる前に次の話題に目を向かせる事で、ライブドア事件から読者の目をそらせます。そして、本書を読み進めていくと、ミドリムシ事業が成功の兆しがでて、一息ついた頃にライブドア事件の話がやってきます。こういう読者の目線をズラす要素がたくさん含まれているので非常に面白かったのかと。

 

◎この本のメッセージ

この本のメッセージは、「はじめに」と「おわりに」に書かれています。この「はじめに」と「おわりに」の文章が僕はとても好きだ。特に「はじめに」の文章で、グッと読者の興味を引きつけているような気がします。

「はじめに」は、今の世の中の現状とミドリムシの可能性について書かれています。そして、「おわりに」の方に、出雲さんがミドリムシから教えてもらった事が書かれています

出雲さん自身は、この本のメッセージをこう表記しています。「どんなちっぽけなものにも可能性があり、それを追い求めていけば、やがてその努力は報われる」。僕は、出雲さんが言いたい事は、この"ちっぽけなもの"に隠されていると思います。

きっと、『そのちっぽけなものは、あなたの手でどんなものにもなる。くだらないものなんてない、そのちっぽけなものにはとてつもない可能性を秘めているんだよ』と言いたいのではないかと思います

 

◎疑問

ユーグレナのプロデュースしている商品の一つに、「ミドリムシクッキー」というものがある。元々この商品の名前は"ユーグレナv22"だったらしい。なぜ商品名にミドリムシを付けなかったかというと、ミドリムシという語感から青虫や芋虫の仲間だと思われてしまうからとのこと。

ここで僕が思ったのは、なぜ「ユーグレナv22」と付けようとしたのか?商品名の候補は、他にあったのか?出雲さんにお会いする機会があればぜひ一度聞いてみたいものである。

 

◎気づき

「はじめに」のページの表記がローマ数字である。本章に入ると数字の表記になっている。

 

◎読書メモ

1.飢餓問題=食料不足ではない。栄養不足である

バングラディッシュは、山ほど米がとれる。毎日の食事にカレーがでてきて余程の貧困層でなければ、とりあえず腹を満たす事ができるくらいの炭水化物はとれる。それよりも問題なのは、野菜や肉、魚やフルーツなどの食品が全くといっていいほど足りなかった。

それらの食品がないというのは、子供の成長に必須なタンパク質やミネラル、そしてカルテノイドや不飽和脂肪酸も全然足りてないことを意味する。

国連も栄養指導などを通じて、栄養素を接種する必要性について教育しているが、栄養素事態が足りていないし、持っていくことが難しい。


発展途上国というと、頭にいつも浮かぶのは、食料不足です。そして、食料不足=食べ物がない、だとずっと思っていました。これは、出雲さんが、マザーズに上場していた時に言っていたのですが、発展途上国のほとんどが、食料不足でなく栄養素不足だそうです。

さらに、テレビで発展途上国の特集をやる時に、子供のお腹が妊娠したように膨れているのをみた事はありませんか?あれは、食料不足でなく栄養素不足から起こる症状だそうです。

 

2.この空気の読まなさは尋常ではない空気の読まなさが、仲間の心を動かす

「ぜひ仲間に引き込みたい」そうは思ってみたものの、福本は将来を嘱望される跡取り息子。そこで、僕は勝負に出た。本人の意向を聞く前に、会社の創業企画書の役員の欄に、福本の名前を入れて印刷したのだ。出来上がった企画書を福本に見せて「もう名前入っちゃってます。企画書刷っちゃいました」と伝えた所、、、

「それじゃあしょうがないですね」と僕の強引さに負けてユーグレナの役員になることを了承してくれた。福本はこの時、正直に言えば「はあ?」と思ったらしい。それも当然だろう。まったく本人に確認することなく勝手に役員にされた、といきなり聞かされたのだから。

しかし、この僕の身勝手な行動に関して福本は「この空気の読まなさは尋常ではない」と思ったそうだ。そしてこういう無茶なところがなければ「ミドリムシで地球を救うなんて恥ずかしいこと言えないよな。この人と一緒なら面白い事ができるかもしれない」と感じたという。


本書の中で一番好きなエピソードです。出雲さんの強引さに押されて福本さんが会社役員を了承する。なんだかプッと笑えるシーンですよね。僕は、無茶する人が基本的に好きではありません。あと、「無理やり」とか「強引」とかいうことばも好きではありません。なんだか自分本意な感じがするからです。

でも、無茶をするという事は見方を変えれば、それだけ情熱があるという事にもなります。また、それだけその人にはパワーが秘められている事もわかります。無茶や強引ということばのよさを教えてくれるワンシーンだと思います。

 

3.カギは蚊取り線香

これまでのミドリムシを培養する研究のアプローチは、「どうすればミドリムシを食べてしまう外敵から守れるか?」ということをテーマにしていた。そのために大規模なクリーンルームを作り、ほとんど無菌のところでどうにかしてミドリムシのみを純粋に培養しようと試みていた。

しかし、そのアプローチをとる限りどうしても大きな壁に打ち当たってしまう。培養の途中で一匹でもプールにバクテリアや昆虫が入ってきたら、生物は外敵がいない中でミドリムシを食べ放題なわけである

そのため一夜にしてミドリムシが全滅し、本来はきれいな緑色の培養液が真っ赤であったり黄色であったりあっという間に染まってしまう

僕たちはその先輩たちの研究結果を受けて、逆のアプローチをとることにした。例えて言えば、こういうことだ。夏の夜に蚊に刺されたくない場合はどうするか?二通りのやり方があると思う。①部屋に「蚊帳」をつるす②蚊取り線香をたく。我々は、後者を選んだ。
 
4.すべての先人に感謝を
2005年、12月15日。

鈴木「出雲さんやりました。プールが、ミドリムシでいっぱいになりました」
出雲「本当か!?」

鈴木はこの時乾燥した状態で66キログラムのミドリムシを収穫した。2004年から2005年までは、1リットルのフラスコから1グラムのミドリムシがとれるレベルだったが、比較にならないほどの量がとれるようになったのだ

この時鈴木は僕以外に、中野先生に電話をしたという。だが、それは僕たちが成功しました、という報告ではない。まず、最初に先生たちにお礼を伝えるためだった。培養に成功したのは、中野先生をはじめとするこれまでミドリムシを何十年と研究してきた先生方のおかげだったといってよかった。

なぜなら、彼らは、僕らよりもはるか昔からミドリムシ対する世間の理解がない時代に、ずっと研究をし続けてきたからだ。僕たちのアイディアも先行する先生たちが積み上げてきた研究に最後の一押しをしたにすぎない。

だから、ミドリムシの培養に成功したからといっていつも僕らだけにスポットライトにあたるのは事実と違うという事を声を大にして言いたい。

僕たちは例えるなら駅伝の最後のランナーで、必死で先頭を走り続けてきた先輩たちからバトンを受け取って、ゴールテープを切る栄光を与えてもらっただけなのだ。


ここの箇所は、読んだらすぐに出雲さんのファンになる箇所です。僕なら、ミドリムシの培養に成功したら声を大にして「俺の成功や!」と口には出さずとも心の中で思うだろう。出雲さんの人柄のよさ、先人たちに感謝をするあり方はとても素敵で感動します。いつだったか、木村拓哉の本を読んだ時にも同じことが書かれていたような気がします。

俺たちは、野球で言うと4番バッターのようなもの。何も言わなくてもすべてお膳立てしてもらってるんだよね。チャンスに回ってきて、そこで打つ。それが俺らの仕事。

でも、そのチャンスを作ってくれてるのは、プロデューサーさんからディレクターさん、裏方のスタッフさん、アルバイトの人みんながいるから。それを忘れちゃいけない

 
確かこのような事が書いてあった。自分が今いる事ができることへの感謝を常に忘れてはいけないということなのかもしれません。
 
4.あらゆる人に、あらゆる手段で営業する
ベンチャーの経営者が銀行にお金を借りに行って断られた。あるいは営業マンが新規営業をしているのに全然受注できない、という話をよく聞く。そのたびにいつも思うのは、「いったい何人の人に会って話をしたんだろう?」というこである。

銀行なら頭取に、企業なら社長に、だめと言われたら諦めるしかないだろう。しかし、大きな企業であれば、担当になりうる人は、何百人、下手すれば何千人、何万人だっている可能性がある。その担当の人だって、たまたま営業に行ったときにお腹が痛くて調子が悪かったとか、前の日に夫婦喧嘩をしていて期限が悪いせいで、こちらの提案をちゃんと聞いてくれなかったかもしれません。

だとすれば、日を改めて出直す。あるいは他の人に聞いてもらったほうが、ずっと物事が前向きに進んでいく。このことが約3年間の営業経験で、骨身にしみてわかった。


以前、ダイワハウスの創業者"石橋信夫"の本を読んだ時に、次のようなことばが出てきた。「営業とは、前の日に出先でどんな事あろうと、次の日はケロッとして顔を出すことだ」

当時はなぜ営業マンはそのような態度で望まないといけないかわからなかった。でも、今回出雲さんのここの箇所を読んで少しわかったような気がします。