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「わたしは天才じゃない」と諦めてるあなたにこそ読んでほしい《凡事を極めるー私の履歴書 樋口武男》

凡事を極める-私の履歴書

凡事を極める-私の履歴書

 

内容(「BOOK」データベースより)

電話が鳴ったら1回でとる。元気よくあいさつをする。約束を守る。「凡事」を極めることで、お客様の信頼が積み重なり、やがて「非凡な成果」につながる。「凡事徹底」「現場主義」「即断即決」で、業績不振の支店、債務超過寸前のグループ会社を立て直し、1兆円企業の組織改革と 業績拡大を成し遂げた大和ハウス工業代表取締役会長兼CEOが語る、人と組織を強くする経営の極意。

感想

大和ハウスグループ現会長、樋口武男さんの3冊目の著書。現在、75歳という年齢にも関わらず、現場の最前線に立ち、4万人近い従業員を率いている。

ダイワハウスは、樋口さんが立ち上げたのではなく、石橋信夫という人物によって立ち上げられた。

逆境のリーダー・石橋信夫―大和ハウス工業創業者の壮絶人生と先見の経営
 

戦争を経験したことで片足が不自由になったが、力強いリーダーシップを発揮し、この身ひとつで売り上げ一兆円企業にしたのが石橋氏であり、まさにダイワハウス内におけるカリスマ的な存在である。彼はすでに亡くなったが、大和ハウスの社員にそのDNAは受け継がれている。

その石橋氏の右腕であった人物が樋口武男である。樋口さんは、ダイワハウスを新卒で入社していない。いわゆる転職組だ。

大和ハウス入社前は、鉄鋼商社ではたらいていた。待遇も報酬も申し分なし。だが、もともと30歳までに起業をしたいと思っていた樋口さんは、鉄鋼商社では自分の成長を望めないと思い立ち退職。

そして、当時不夜城と言われていた大和ハウスに入社することになり、やがて徐々に頭角をあらわすことになる。

期待した本ではなかった

樋口さんは、この本以外にも"熱湯経営"と"先の先を読め"の2冊を出版している。どういう経緯で大和ハウスに入り、石橋氏からどんな教えを受けたのか、といったことが書かれている。

しかし、2冊とも石橋氏の話ばかり。ぼくは、樋口武男のストーリーを知りたかった。どういうふうに生きてきて、80歳近い年齢にもかかわらず、なぜ生き生きとはたらくことができるのか?なにが彼を突き動かしているのか?そんなことを知りたかった。

そして、樋口さんの書籍が日経から出るという話を耳にした。しかも、日経で人気の私の履歴書シリーズをまとめたものだ。今度こそ、樋口さんのストーリーを知ることができると思っていた。

しかし、その期待は裏切られることになる。またしても、石橋氏の話が大部分を占めていたのだ。もちろん、私の履歴書シリーズなので、内容はすこし自伝っぽい構成になっている。だが、それでもぼくが求めていたものではなかった。

神輿にのるのではなく、担ぐ側にまわった

なぜいつも石橋氏の話ばかりなのだろうか。これはあくまでも推測だが、樋口さんは神輿にのるのではなく、担ぐ側にまわったんじゃないだろうか。

前述の通り、1代目の社長である石橋信夫は圧倒的なカリスマ性の持ち主だった。神輿に乗って、皆を鼓舞し、大和ハウスを率いていた。1980年、石橋氏は病にかかり、相談役に退く。

このあと樋口さんが社長になるかと思いきや、そうではない。樋口さんが第6代社長として就任するのが2001年。それまでに4人の社長が入れ替わっている。注目すべきなのは第4代社長石橋伸康氏だ。石橋信夫の長男であり、海外にも留学していたサラブレッドだ。

伸康氏が社長に就任したときは、バブルが崩壊したあと。いわゆる失われた10年期のまっただなかだ。そこで、伸康氏は経営のスリム化を宣言。大幅なリストラと財務改革を行った。しかし、これが社内の反発を招いたのか、わずか3年で社長の任が解かれる。

樋口さんは、これらの出来事をずっと見続けてきた。たぶん、このとき「いずれ自分が社長になったとき、自分が神輿に乗って大和ハウスを率いるのはダメだ」と感じたのではないだろうか。

神輿に乗るのではなく、石橋信夫の教えを神輿に乗せ、自分も神輿を担ぐ。「創業者はいつもこう言ってたんだから、おれらもがんばろうぜ」というスタンスをとったんじゃないかと思う。

初代社長がカリスマ的な存在であったこと、次期社長らが社内政治に苦労していたのを見続けていた樋口さんだからこそできた決断だったのではないだろうか。

もちろん、これはぼくの推測にしかすぎないから、正しいかどうかはわからない。だが、もし樋口さんにお会いできる機会があり、そのとき大和ハウスの会長の任から退いていたら、聞けたらなあと思う。

まあ、そんな機会はないだろうけどね。

熱湯経営―「大組織病」に勝つ (文春新書 586)

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先の先を読め (文春新書)

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