読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

「児童養護施設のことを知らない」という大学生におすすめする一冊の本《明日の子供たち 有川浩》

明日の子供たち

明日の子供たち

 

2011年7月、半袖が当たり前になってきたこの時期に、ぼくは立川にある児童養護施設を訪れていた。立川駅からバスで10分ほど離れた場所にあり、バス停を降りてしばらく道なりに進むと児童養護施設が見えてくる。今回こんなところに訪れたのは理由があった。それは施設にいる子どもたちに勉強を教えるためだ。

投資銀行ゴールドマンサックスが主催するゴールドマン・サックス・ギブズ・コミュニティ支援プログラムというものがある。これはざっくりいうと貧困問題をNPOと共に解決するものだ。

つまり、ゴールドマンサックスがお金を出して、NPOが取り組む社会問題を解決するのを支援するというプログラム。ゴールドマンサックスが支援しているNPOのひとつに、NPO法人Kidsdoorの名前があった。

Kidsdoorは子どもの貧困問題を解決しようと活動している法人で、もともと関わりがあったこともあり、児童養護施設の支援を手伝うことになった。支援の具体的な内容は、施設にいる中学生に週に1回大学生が勉強を教えるというもの。

支援する施設は全部で4〜6施設ほどあった。それぞれの施設に責任者となる社会人ボランティアの人がいて、その社会人ボランティアを束ねるリーダーみたいな人もいた。生徒の人数は20人弱ほどで、さらに5人の職員がいた記憶がある。

そんな記憶が頭のなかにわーっとよみがえった。もしあのときこの本が発売されていて、もし読んでいたらぼくの行動や考えは変わっていただろうか。

 

有川浩さんが書いた『明日の子供たち』を読んだ。有川さんの本は二冊目。

 

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ーーこの児童養護施設では何かが起きている。「図書館戦争」シリーズ、『空飛ぶ広報室』でおなじみの有川浩が書いた日本の児童養護施設を舞台のドラマティック長篇。社会人三年目を迎えた三田村慎平は仕事に慣れたものの、惰性でこなすようになり、毎日が退屈でしかたなかった。そんなとき、テレビで児童養護施設のドキュメンタリー番組を見て感動する。すぐさま会社を辞め、児童養護施設の求人募集を探して片っ端から応募し、やっとのことで「あしたの家」で採用となったが...児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇ーー

 

本書の魅力は異なる性格をもったふたりの職員の存在だろう。新人でかわいそうな子どもを救いたいと意気込む三田村。愛想はないが、熱い想いを胸に秘める「あしたの家」3年目の職員である和泉。和泉は三田村の言動が一年目の自分の姿と重なり、時折いらだちを覚える。だが、一方で無知がゆえに率直で本質を捉えるような意見をする三田村の姿に和泉は徐々に彼を認めていくことになる。

そして、理論派の熱血ベテラン猪俣吉行、聞き分けのよい"問題のない子供"16歳谷村奏子、大人より大人びている平田久志。かれらの存在も忘れてはならない。ベテランならではの過去のトラウマ、一見問題がないように見える生徒たちの深い闇。それぞれが悩みを抱えている。

あなたはどの人物に共感するだろうか。個性あふれる5人のキャラクターとリアルな児童養護施設の描写を読んで感じるといい。