自分をさらけだせないひとはこれを読もう《傷口から人生 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった 小野美由紀》
傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった (幻冬舎文庫)
- 作者: 小野美由紀
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2015/02/10
- メディア: 文庫
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内容紹介(アマゾンより)
なぞのおじいさんにナンパされる
大学3年生の冬、小野さんは面接の帰りに書店で作家のおじいさんにナンパされる。当時小野さんは出版社を目指して就活していることを話すと、おじいさんからこう聞かれる。「あんた自身は?何か書かないの?」と。小野さんは書くということに対して特別な感覚をもっており、自分にはまだ早いと言った。が、おじいさんは笑ってこう返す。
「編集者を目指すより、まず、10枚でいいから、書きなさい。舞台を作るのに、最初から照明だの、大道具だの目指すヤツはいない。皆自分が役者になりたくて、でもなれないと分かって、それでも舞台に関わりたいからそういうのになるんだ。まずは自分に才能があるかどうか確かめて、だめだと分かってから、目指してみればいい。」
小野さんはものを書く自信がないと答えると、おじいさんはつづけてこう言った。
「いいかい?自信っていうのは、ある日突然湧き出るものじゃないんだよ。溜めるものなんだ。君は、言葉の溜まる見えないバケツがあると言ったね。自信も同じだよ」
そのあとさらにおじいさんのことばが続くのだけど、そのことばもいい。そこはぜひ本書を手にとって読んでほしい。このプロローグは本書のなかでいちばんのお気に入りの箇所だ。特におじいさんのことばが気に入っている。
「自信はある日突然湧き出るのではなく、溜めるもの」
またこのおじいさんがどこか謎めいた魅力があって、すごく気になる存在なんだよね(この導入で登場して以降はでてこないんだけど)。そういえば小野さんがこうして本を出版したいま、おじいさんはいまどうしているのかなあ。(当時の小野さんの印象とかききたいなあ)
じぶんをさらけ出している文体
人間には隠しておきたいみにくい感情やカッコ悪い出来事がだれにでもある。でも、そういったことを隠さずありありと書かれている。小野さんは大学4年生のときに就活を投げだし、スペイン行きを決める。目的はサンティアゴ巡礼。フランスのピレネー山脈の麓から、スペイン北部の都市サンティアゴまでの道のりをひたすら歩く旅だ。距離は約850キロメートル。
そして、サンティアゴの巡礼の旅のとちゅう、さまざまな巡礼仲間と出会う。大道芸で日銭を稼いで、世界を渡り歩くお兄さんコンビ。5年も世界を旅している、年齢不詳のマリファナ中毒おじさん、会社を辞めて、とりあえず語学研修を受けながら、仕事をこっちで探すつもりのアラサーお姉さん。彼らを見て、小野さんはこう思う。
彼らはとても楽しそうだった。日本のつまんない常識からも解き放たれて、不安もなにもない、という顔で。けれど... ...。正直に、正直に告白すると、はっきり言って、私は彼らを見た時に、うらやましいと同時に、ついバカにするような気持ちになってしまったのだ。そうは言っても、彼らは日本の社会から逃げてるんじゃないか?っていう、5パーセントのケーベツが。
「絵を描いて生活したい。もう日本に縛られているのは嫌なんだ。まずは路上で絵を売りながら暮らそうと思って...」と言いながら、笑顔で作品を見せてきたお兄さんの絵は、ぶっちゃけ落書きレベルだった。
(中略)これが「自由な大人」なのか。だとしたら自由ってあまりにも荒唐無稽で、美しくないじゃないか。今、こうしてスペインに歩きにきている私と、彼らは寸分違わぬはずなのに、ついバカにしてしまうのは、学生の驕りだ。いくら就活に失敗しても、自分の大学がキライでも、私はまだ、学歴へのプライドを捨てきれない。私はまだここまでじゃない、っていう、安全圏からの軽蔑。こういう時、私は私の醜さを、いちばんよく感じる。
こういう自分の醜い感情と向き合う小野さんの描写シーンが文中によくでてくる。ぼくは何度も共感した。これが本書のキモと言ってもいいだろう。
小野さんの表現が独特
文中にたとえ表現が多く、いちいち納得させられる。SNSをいい人のショーウィンドウと表現していたのは、なるほど、とおもった。「twitterは感情の洪水だ」というのも言い得て妙だとおもった。
誰もがいい人になろうとする。SNSは「いい人」のショーウィンドウだ。一人で生きて行くには、皆弱いから、「いい人」のフリをする。「いい人」になることで、保険をかけて、生き残ろうとする。「いい人」のインフレ。
気になったところ、疑問など
小野さんはお母さんとおばあちゃんとの仲がうまくいっていなかったのだけど、両者はこの本をよんだのかな。もしよんでいたとしたら、どんなことを感じたのかきになるところ。