読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

数千人を相手に戦う7名の自衛官がカッコイイ《土漠の花 月村了衛》

f:id:yukiumaoka:20160626061613p:plain赤色で塗られている箇所がソマリア青色で塗られている箇所がジブチ。ちなみに、ソマリアの左隣はエチアオピア、左斜めはケニアである。

 

 

ーーソマリアの国境付近で墜落ヘリの救助活動中の自衛官たちのもとに、命を狙われたひとりの女性が駆け込んできた。彼女を守ると決意したとき、男たちの運命は大きく変わってしまう。次々と倒れていく仲間たち、押し寄せてくる大勢の敵、何度も立ちふさがる困難、物語の最後まで途切れることのない緊迫感。果たしてかれらは女性を守り、生きてこの地を脱出することができるのか?ーー

 

土漠の花

土漠の花

 

 

本書は7人の自衛官が主役の冒険小説だ。情に厚いが、優柔不断な友永曹長。非情だが、リーダーシップを発揮する新開曹長。古武道の達人、朝比奈1曹。元暴走族で謎めいた過去の持ち主、由利1曹。射撃の天才だが、臆病な津久田2曹。ムードメーカーで手先が器用な梶谷士長。過去のトラウマから抜け出せない市ノ瀬1士。

映画七人の侍のような個性溢れる7人のキャラクターが登場する。もともと自衛官は12名いたのだが、アスキラと名乗る女性が自衛官の野営地に駆け込んできたときに、かれらは襲撃を受け、指揮官含めた5名がいきなり殺される。しかも、物語の冒頭でだ。

指揮官は倒れ、5名の仲間を失ったかれらだが、なんとか死地を脱出する。物語の鍵を握るアスキラは、ソマリアのある氏族のスルタン(氏族長)の娘であり、他の氏族(ワーズデン)から命を狙われているという。

自衛官たちを追いかけてくるワーズデン、その数は数百・数千人の規模。さらには武装勢力アル・シャバブに援軍の要請をされてしまい絶体絶命のピンチ。対するこちらはわずか7名+一般市民の女性。なぜワーズデンは執拗にアスキラの命を狙うのか?じつはアスキラには自衛官たちに隠していた重大な秘密があったのだ。

本書は4章で成り立っているのだけど、とてつもないスピードで第2章に到達する。もちろん一気読みしてほしいのだが、2章まではノンストップで読んでほしい。そして、第3章から第4章にかけて書かれている大規模かつ細かい描写の戦闘シーンも見どころだ。自衛官たちの運命はどうなってしまうのか?それは本書を手にとって確認してみてくれ。

村上春樹に届いた3万7465通の手紙《村上さんのところ 村上春樹》

2015年1月15日〜5月13日の間に公開されたWebサイト『村上さんのところ』は累計1億PVを突破したという。届いたメールの数は全部で3万7465通。これらを村上春樹がすべて目を通し、さらに3716通の返事を書いた。

村上さんの話によると、3ヶ月間ほかの仕事はまったくできない状態で、肩は痛いわ、目は痛くなるわ、最終的には身体がフラフラになったという。そして、その3716通から選ばれた473通のやりとりが本書に掲載されている。

 

村上さんのところ

村上さんのところ

 

 

村上さんのところ』を読んだ。ぼくはハルキスト(村上春樹のファン)ではないのだけど、普通にたのしく読むことができた。というのも村上さんの回答がいちいちユニークだったからだ。そのなかの3つのメールがすごく印象にのこっている。

さて、かばんに何を入れようか

Q:人生なんてガラクタだと最近思います。親に言われるから勉強をし、人から嫌われたないために世間体を気にし、結局僕って何?人生って何?と最近つくづく思います。思春期だからなどという問題ではありません。春樹さんは人生をどう捉えていますか?(レンポン、男性、17歳、高校生)

 

とてもむずかしい質問です。僕は基本的に、人生とはただの容れ物だと思っています。空っぽのかばんみたいなものです。そこに何を入れていくか(何を入れていかないか)はあくまで本人次第です。だから「容れ物とは何か?」みたいなことを考え込むよりは、「そこに何を入れるか?」ということを考えていった方がいいと思います。

勉強なんていらないやと思えば、勉強なんてかばんに入れなければいいし、世間体なんてかばんに入れなければいい。でもそこまでするのもけっこう面倒かも、と思えば、「最低限の勉強と世間体」といちおうお義理に入れておいて、あとは適当にやっていけばいいんです。よく探せば、きみのまわりに、きみのかばんに入れたくなるような素敵なものがいくつか見つかるはずです。探してください。繰り返すようだけど、大事なのは容れ物じゃなくて、中身です。「人生とは何か?」みたいなことは、そんなに真剣に考えてもしょうがないと僕は思うんだけどね。コンテンツのことを考えよう。

 

「人生とはなんぞや?」みたいな漠然とした問いに向き合うのではなく、人生は容れ物と仮定し、その中身をどうするかをじぶんの頭で考える。非常にわかりやすく、納得させられる返事だ。

たぶん質問者のひとは両親や先生にこの質問をぶつけたことがあるのだろう。というのも後半に"思春期だからなどという問題ではありません"と書かれているからだ。きっとだれかに「思春期だからそういうことを考えるのだよ」と言われたのだろう。

だからこそ村上さんは人生とは何か?という質問に明確な答えを用意し、さらにそこを考えるよりも、なにを選んでなにを捨てるのかが大事なんだ、というメッセージを発したのかなぁとも思ったり。... ...いや、考えすぎか。

 

つまらない文学よりビジネス書を読め!

Q:先日、仕事場の休憩中に村上さんの小説を読んでいたら、そこに顔を出した社長に「つまらない文学を吸収する暇があったらビジネス書を読め!」と叱責されました。この社長は3年前に親会社から出航で単身赴任で小会社の社長になった一言でいうと「エリート」なのです。

そうも言いながら毛嫌いせずにつきに一度はプライベートで酒を酌み交わす程度の仲は築いてあるので、率直に「社長は村上春樹の小説を読んだことはあるのですか?」と聞いたところ「国内の純文学などには興味は無い」と言い出す始末。

私もビジネス書も年間50冊以上は読みますし、同じくらいの小説やエッセイを読みます。

趣味嗜好は音楽においてもありますから、そう否定はしないものの、この堅物発言には腹が立ったので「無駄(エンターテイメント)な知識も人生においてはウイスキーのような嗜好品」として必要だと反論すると「酒は最終的には全部流れる」などとまるで文学に出てきそうな台詞で反論するこの社長。

文学作家の方からして、いかがなものでしょうか?(クロネコヤマト、男性、34歳、会社員)

 

そうですか。たしかに文学ってあまり実際的な役には立ちません。即効性はありません。実におたくの社長のおっしゃるとおりです。言うなれば、なくてもかまわないものです。そして実際にこの世界には、小説なんて読まないという人がたくさんいます。というか、むしろそういう人の数の方がずっと多いかもしれません。

でも僕は思うんですが、小説の優れた点は、読んでいるうちに「嘘の検証する能力」が身についてくることです。小説というのはもともとが嘘の集積みたいなものですから、長いあいだ小説を読んでいると、何が実のない嘘で、何が実のある嘘であるかを見分ける能力が自然に身についてきます。これはなかなか役に立ちます。実のある嘘には、目に見える真実以上の真実が含まれていますから。

ビジネス書だって、いい加減な本はいっぱいありますよね。適当なセオリーを都合良く並べただけで、必要な実証がされていないようなビジネス書。小説を読み慣れている人は、そのような調子の良い、底の浅い嘘を直感的に見抜くことができます。そして眉につばをつけます。それができない人は、生煮えのセオリーをそのまま真に受けて、往々にして痛い目にあうことになります。そういうことってよくありますよね。

(結論)小説はすぐには役に立たないけど、長いあいだにじわじわ役に立ってくる。

 

ちょっと耳が痛い話だった。というのも「小説は読んでも意味ないし、ビジネス書もしくはノンフィクションしか読まない」という時期がぼくにもあったからだ。ノンフィクションやビジネス書は実世界で起きたことを題材としている。だから、本を通じてそれを疑似体験し、それを吸収することで、じぶんが成長するだろうと当時は考えていたからだ。

いまはそんなこと微塵も思っていないけど、当時この返事を見たらどんなふうに思うのか。反論するのか、それとも納得するのか、気になるところではある。

 

知りたい知識しか勉強したくありません

Q:学校に行くことにはどんな価値があるかと思いますか。学校に行かないと欠落してしまうものはあると思いますか。私は自分の好きなことができない学校が嫌いです。日々が課題やテスト勉強で埋め尽くされるのにうんざりです。テストによって自分が記憶することを操作されるのがいやです。自分が記憶したいことを選びたいし、記憶する必要がないことを無理やり頭に入れたくありません。学校で勉強していても全然楽しくないです。私は大学には行かずに、自分の好きな場所で自分の知りたい知識だけを本などで学びたいと思っています。

 

きみの言いたいことはよくわかります。学校ってほんとに面倒なところですよね。僕もそう思います。勉強はつまらないし、規則はうるさいし、問題のある教師はいるし。僕は女の子に会いたくて、それで学校に行っていたようなものです。あとは麻雀のメンバーを探す目的もあったし。

きみの言い分はもっともだけど、でも「自分の好きな場所で自分の知りたい知識だけ」を学んでいても、それはそれで飽きちゃいますよ。大事な知識を得るには、けっこう「異物」みたいなものが必要なんです。そういうものがないと、同じところをぐるぐるまわっているみたいなことになりかねません。一度大学に行ってみたら?大学もつまらないかもしれないけど、いちおう自分の目でつまらなさを確かめてみて、それからやめるのならやめれば?と僕は思いますけど。

 

「異物」が必要というのは分かるなぁ。たとえが正しいのかわからないけど、最高の松坂牛を毎日食べているとたまに豚肉が食べたくなる。豚肉を食べると松坂牛の味を確認できる。松坂牛が当たり前になるといつか飽きてしまう。

きっと「異物」の存在が好きなものの存在を気づかせてくれたりするんだろう。

 

村上さんのところ コンプリート版

村上さんのところ コンプリート版

 

コンプリート版は、 村上さんが返事をだした3716通すべてを見ることができる。ハルキストならば、買いだろう。

アフガニスタン紛争で馬に乗って戦ったアメリカ兵の話《ホース・ソルジャー 米特殊騎馬隊、アフガンの死闘》

 イラク戦争で戦い、その後アメリカ軍を脱走した元兵士の本を去年読んだ

 

yukiumaoka.hatenablog.com

 

この本はイラク戦争での影の部分について書かれており、アメリカ兵が戦争と無関係な市民の家に踏み込み金品を略奪したり、女性への性的暴行などを行っていたことが明らかとされた。

一連の出来事を見ていたジョシュアキーさんは、これが正義のための戦争とは思えなくなり、家族を連れてカナダへ脱走することを決意する。非常に胸が痛くなる内容であり、戦争の裏側を書いた興味深い本だ。

 

ホース・ソルジャー―米特殊騎馬隊、アフガンの死闘

ホース・ソルジャー―米特殊騎馬隊、アフガンの死闘

 

 

今回読んだ本は戦争の影の部分でなく、光の部分について描かれた本だ。『ホース・ソルジャー』を読んだ。イラク戦争が起きるまえのアフガニスタン侵攻を題材としている。9.11が起き、ブッシュ元大統領がアフガニスタンとの戦争を宣言したわけだが、アフガニスタン入りを最初に果たしたのがたった12人の兵士であったことは知っているだろうか。

 

2001年9月11日、世界最大のタワーを誇るワールドトレードセンターにアメリカン航空ボーイング767号が突入し、爆発炎上した。事件の首謀者がウサマ・ビン=ラーディンとアルカイーダと発覚し、アメリカ政府は当時アフガニスタンを支配していたタリバン政権にかれらの身柄を渡すよう命じる。
しかし、タリバン政権はこれを拒否、当時の大統領ジョージ・W・ブッシュアフガニスタンとの戦争を宣言する。ひそかにアフガニスタン入りを命じられたのはたった12名のアメリカ特殊部隊(グリーンベレー)。かれらに与えられた任務は、タリバン政権の抵抗勢力である北部同盟と連携し、武装勢力を一掃すること。
ところが、3つの部族によって構成される北部同盟の総司令官であるアフマド・シャー・マスードがアルカイーダによって暗殺される。マスードの死によって、北部同盟内で利権争いが勃発。
そんな中、いざ特殊部隊がアフガニスタン入りをしたものの、現地の山々は険しく、慣れない馬に乗って戦わなければならなかった。
現場指揮官であるミッチ・ネルソン大尉は出立まえに上官からこう命じられたことを思い出す。「誰も信じるな」と。この戦争でいったい誰を信じていいのか。12名の兵士たちは任務を無事遂行することができるのか。500ページにわたるこの傑作戦争ノンフィクションをとくと味わうといい。

 

特殊部隊(グリーンベレー)という言葉はおそらく聞いたことがあるだろう。特殊部隊はゲリラ戦を得意とし、ほかの兵士とは役割が異なる。

 

戦闘、外交、そして国家建設。戦争を遂行し、死者の数を勘定したあとは人道的支援を行うよう訓練されている。兵士でもあり、外交官でもある。衛生兵は歯医者もやって、村人の歯を治療する。さまざまな爆発物を扱うのが専門家の工兵は、村の橋を架け直したり、役所を建てたりできる。現地の言葉を話し、信仰、性、健康、政治にまつわる地元のしきたりをたゆまず勉強する。(中略)

SEALや正規軍はだいたいにおいて、相手国の言語や習慣や微妙なちがいを学ぼうとしない。それに反して、特殊部隊はまず考え、撃つのは最後になる。芯は強いが、相手をできるだけ傷つけずに物事をやり遂げるーそれが特殊部隊なのだ。

 

武器を使った解決でなく、平和的解決を第一とするのが特殊部隊。そんなかれらが先遣隊としてアフガニスタンに送られたわけだけど、じつはアメリカ至上初の試みだった。

CIAが北部同盟との裏工作を進め、特殊部隊が現地で拠点をつくり、ターリバンの基地を発見し、それを空軍に連絡。そして、空軍の爆撃と地上軍(北部同盟+特殊部隊)による同時攻撃。これがアフガニスタン戦争におけるアメリカ軍の作戦だった。このことについて、500ページにわたって書いてあるんだけど、いかんせん長い。とにかく長い。

特殊部隊員ひとりひとりの背景はもちろん、本書は9.11が発生したときから描かれているから、読み手の体力がないとすこしキツい。

とはいえ、アフガニスタン戦争がどのように始まったのか、現地の兵士たちはなにを考え、どのような行動をしたのか、そんなことについて詳しく書かれているからアフガン紛争に関心がある人にとっては興味深い一冊だろう。

北部同盟のモハケク、ヌール、ドスタムの3者の利権争い、兵士にとっての最大の敵であるマスコミとの攻防、カラァイジャンギーの攻囲戦、語りたいシーンはいくつもある。興味がわいたらぜひ挑戦してほしい一冊だ。

 

冬の兵士―イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実

冬の兵士―イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実

 

読書めも

・マザーリシャリーフの現在の治安は回復。青のモスクが有名。

・アフガンにそびえ立つ山々が高くヘリコプターを飛ばすことができない(高すぎると気象を予測することが難しい)

ソ連がアフガン侵攻→多くの難民が発生→ここでタリバンが誕生。オレらの国を作る!と意気込みタリバン政権が誕生→しかし...

・アフガン紛争で活躍したグリーンベレーの隊員の多くはイラク戦争にも派遣されその多くが死亡した

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