逆境を笑え 野球小僧の壁に立ち向かう方法 川崎宗則
内容と感想
元ソフトバンクホークスの選手であり、今はトロントブルージェイズの川崎宗則。ブルージェイズでも、ソフトバンクでも「ムネりん」の愛称で親しまれていました。イチローの愛弟子としても有名ですね。
そもそもこの本を読もうと思ったのは、タイトルと表紙の写真に魅かれたからです。この表紙の写真のムネりんが「逆境を笑え!」と本を手にとった自分に語りかけてきそうな感覚を覚えたからです。
しかも、サブタイトルのあるワードがムネりんにぴったりなんです。「野球小僧」っていうワードがね。確かにソフトバンクのときは「福岡のプリンス」とちまたでは言われてたし、シーズン記録の一つである「盗塁王」「最多安打」のタイトルも獲得しています。
でも、大リーグに行ってからのムネりんは「野球小僧」という言葉がすごく似合っているような気がします。野球に対して一生懸命取り組んでいる姿とか、ブルージェイズのムードメーカーとして活躍する姿を見ていると、そう思わせてくれるんです。
さてさて、本書の内容ですが、自己啓発本でもないですし、How to本でもありません。ムネりんの自叙伝といったところでしょう。
ムネりんのことだけでなく、イチローとの思い出なども書かれているので、イチローファンのぼくにとってはすごくよかった一冊でした。
読書メモ
1.おれは他人様のことがわからない、自己チュー人間
イチローさんは、おれがどういう人間なのか、わかってる。時々、耳の痛いことをズバッと言われるんだけど、けっこう当たってるし。イチローさんいは人を見る力があるんだよ、おれにはそれがない。自己チューで自分大好きなタイプ。イチローさんは人に興味があるんだろうね。人のことが大好きだから、すぐ他人様のことを考える。
ぼくから見た川崎宗則は、責任感や正義感が強く、人のために尽くすようなタイプだと思っていた。だからこそ自分大好きで、人のことがあんまりよくわからないと書いてあったことに対して驚いた。
2.マイナー?野球ができればおっけー
マイナー契約にしても、メジャーのほうが環境がいい。マイナーの環境は劣悪だって、いろいろな人から聞かされた。いやいや、おれが求めるのは、野球ができる環境。移動が長時間のバスだから、食事がハンバーガーだから、それが何が問題ですかってこと。
アメリカでやりたいと思って、代理人に交渉は任せていたけれど、いつまでたってもオファーが届かない。その間、ずっと福岡で練習していた。ひとりで練習していたんだよ。そのほうが、どれほど劣悪な環境だったか。
マイナー?9人いるぜ。相手もいるぜ。審判もいるぜ。グランドもあるぜ。それっていったいどれだけ恵まれた環境なんだよ。
すごくテンポのいい文体です。こういった文体が本書のなかにいくつか出て来るのですが、ムネりんぽいような気がすごくします。
3.野球が好きだったのに、責任感や義務感に自分が占拠されてしまった
メジャーでの生活は楽しいことばかりじゃない。でも、メジャーで野球をすることで、改めて野球が好きだということを思い出した。日本でも野球が好きで、野球が楽しかった。
ただ、ホークスでの立ち位置が変わるにつれて、おれは監督やチームのために野球をやっているつもりなんてなかったのに、いつの間にか、そういう責任感とか義務感に自分を占拠されてしまっていたような気がする。
うれしいし、ありがたいし、光栄なことではあるんだけど、それが結局は自分で自分を苦しめてしまっていた。それが息苦しくなった。
おれは、子供の頃から野球が好きで、野球が上手くなりたくて、野球をずっとやってきた。観に来てくれる人が、チーム名とが、「すげえな、カワサキ、うめえな」って褒めてくれるのがうれしかった。そういうことを思い出したくて、イチローさんの立っている舞台に立ちたくなった。おれはなぜプロ野球選手になったのか、それを思い出したかった。
ムネりんがメジャーに挑戦すると表明したとき、「イチローが好きだから行くんだろうなー」と軽く思っていた。でも、この文章を読んでメジャーに挑戦しようと思った理由がすこし分かった気がする。
4.スターティングベンチはおれの仕事!
2009年のWBCに出たとき、スターティングメンバーで試合に出られなかった。でも、おれは今日もスタベンだって言ってた。
スターティングベンチ。これは、WBCのときが初めてじゃないから。2000年、プロに入ったときも、1994年、中学校に入学したときも、レギュラーじゃなかった。でも、楽しかった。それは、自分の仕事があるから。
バット引きでも、声出しでも、おれの仕事。この時間はおれにしかやってこない時間だって、この仕事はおれにしかできない仕事だって、そういう想いが小さいころからあった。
だからスタベンって言ったのは、スターティングメンバーじゃなくても、スターティングベンチとして、気持ちはこの試合に入っていると言いたかったから。プロは試合に出ないとって言われるけど、そこは自分の気持ちの持ち様ひとつ。
5. 最近の若者は元気がないって言われるけど、いいじゃん
時代によっていろんな考え方があると思うけど、たとえば、最近の若者は元気がないと言われているとしたら、おれは別に元気がなくてもいいじゃんって思う。実際に元気がない人はいる。
でも、元気のある人もいる。元気のない人が、元気がないのはそれなりの理由があるんだろうから、 しょうがない。元気がないとき、みんなでよってたかって元気出せ、元気になるにはどうしたらいいんだって考えても、元気になれるものじゃないんだよ。
だったらそれでいいじゃん。元気のない人は、元気がないんだから。それを持ち味にすればいい。おれは元気のない人にはこう言いたい。
「大丈夫、元気のある人はいますから、安心して下さい、と。」そのうち元気になったら、元気のない人のために、そのとき、頑張って下さい、と。