【#119】女盗賊プーラン プーラン・デヴィ
数年前に、とある学生団体の代表をやっている先輩に対して、悪態をついたことがあった。その団体はインドで途上国支援をしており、スタディーツアーなども実施していた。その先輩とたまたま飲む機会があり、インドでの話をいろいろ聞いた。そこでたまたまカースト制度の話になった。僕はカースト制度を世界史で学んでいたので、カースト制度のことは知ってるぜ面でカースト制度の話をしてみた。
『カーストってバラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラっていう区分で、身分制度まだ残ってるんですよねー。まじインドってたいへんっすよねー』みたいな話をしたような気がする。それに対して先輩は『それだけじゃないけどな。もっといろいろあんねん』とすこし怒ったような口調で僕に言った。「ナニ言ってんだ?コイツ。世界史で習ったんだけど。」と、当時先輩に対して思ったことをよく覚えている。
いまふりかえってみると、非常に恥ずかしいことだった。教科書に書いてあることがすべてだったと思っていたぼくは相当のバカだったにちがいない。よくよく考えれば、僕はインドのことなんて世界史で学んだカースト制度くらいしか知らなかった。その程度の知識なのに、知ったような口をきいたのだから。
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2001年7月25日、元盗賊で文盲で下院議員だったプーラン・デヴィは、 暗殺者の凶弾によってこの世を去った。インドの貧しい下層カーストの家に生まれ、親戚や警察からレイプをされ、盗賊にさらわれ、夫を亡くし、刑務所にも11年収監された。数多くの悲しみと怒りを体験したプーランの最期は、あっけなかった。
2014年現在、インドではカースト制度の名残があり、身分による差別がいまもなお続いています。また、世界第二位の人口をかかえる大国インドの、都市部と農村部の格差は相当なもので、人々の意識にもかなりの隔たりがあるという。
カーストとは、インド特有の身分階級制度で、4つの階級に分かれていること、階級間を越えた婚姻は認められないこと、といった程度が高校の世界史で習うレベルである。しかし、実際のカースト制度はもっと複雑で数千ものカーストで構成されており、身分だけでなく、職業の中にも身分制度が存在している(ジャーティー)。そして、身分が低いものや女性は、特に激しい差別を受けていた。暴行やレイプがあっても、加害者が身分が高い者であったら、警察はもみ消すことなんて日常茶飯事であった。
わたしたちを雇うタクールは、報酬の支払いをよく忘れた。「あしたな」と言ってわたしたちを追い返し、いざ払う段になると、あの日の分はもう食料で払ったとか、いついつは働かなかったとか、いろいろ難癖をつけては支払い額を減らそうとした。おれたちは帳簿をつけているんだと言って、自分たちの言い分を正当化するのも彼らの常套句だった。
プーランは、幼いころから理不尽な目に合いつづけ、そのうち実力行使にでる。富裕層対してに「力」で報いることが彼女なりの正義だと信じていたのだ。
チョーティーと一緒に彼らの牛や山羊のところに忍びより、つないであうひもを解いて野原に放すか、あるいはそのままわたしたちの家まで連れてきて所有者に会いに行った。
「すぐに払う?それとも、このまま山羊をもらっておこうか」これまでずいぶんひどい目にあって、何度も凍りつくような経験をし、わたしはもう、彼らからなにかされるかもしれないと恐れることはなかった
最後にこの本の裏話をひとつだけご紹介。本書は、プーラン・デヴィという人物を追ったひとつの物語である。この本の依頼がプーランのもとにきたとき、彼女は文盲であった。幼いころから、ずっと働き続け、盗賊になって生活をしていたわけだから、教育を受ける機会がなかった。本もインドの王様を描いた叙事詩ラーマーヤナの読み語りをきいたことがあるだけ。だから、この本は彼女の口語を編集したカタチになっている。この本を通じて、インドの身分制度の理不尽さや貧富の激しさを目にするだけでなく、常に戦いつづけた人生を歩んだ女性の生き様を感じることができるであろう。