【#111】ホームレスに幸せを運んだ奇跡のネコ《ボブという名のストリート・キャット》
はじめに
どこかで読んだ有名な言葉にこういうものがある。「われわれすべての人間は、毎日のようにセカンドチャンスを与えられている。なのに、目の前にぶらさがっているものをみすみす逃してしまっている、と。
つまり、チャンスは到来するものではなく、気づくものであり、それをふいにするのも、つかみ取るのも自分次第なのだ。
そんなひとつの言葉を紹介し、本書のレビューを書いていこうと思う。
ボブとジェームズ
本書のレビューを書く前に、主人公2人を紹介する。まずは著者であるジェームズ・ホーエン。プロのミュージシャンを志していたが、薬物依存症になり、さらには路上生活者となってしまう。バスキング(路上演奏)で生計を立てていた2007年の春、生涯の相棒、野良猫のボブと出会う。このボブこそが彼の生活を変えるきっかけを与える不思議な魅力を持った猫である。
本書のキーワード
本書には全編を貫くひとつのキーワードがある。『セカンドチャンス』それはだれにでもめぐってくるものだ。ジェームズは何度もその機会に恵まれながら、そのたびにふいにしてきた。けれども、ボブとともに生きるというチャンスをしっかりつかみ、人生を大きく変えることができたのだ。
もちろんセカンドチャンスというキーワードはなんとなく分かっていた。でも、ぼくは別のキーワードもこの本書にはあるのじゃないかと思う。そのキーワードは、自分にとって大切なものは人によって異なるということだ。大切なものが「友達」や「彼女」のような"人間"を挙げる人もいれば、「思い出」のように"カタチのない"ものを挙げる人もいれば、著者のジェームズさんのように「犬」という"動物"を挙げる人もいる。彼にとっては、ボブという「犬」が大切なものであり、ボブと共に生きることが彼の幸せなんだとこの本はぼくに教えてくれたんだと思う。
70万部を超えるベストセラー。その印税のほとんどを寄付。
原書の「Street Cat Named Bob」はイギリスで2012年に出版されると同時に反響を呼び、現在、本国では70万部を超える売り上げを記録し、全世界28カ国で翻訳出版されている。ジェームズさんがボブといっしょに本のサイン会を開けば、大勢の人が行列をつくり、その様子は動画サイトにもアップされている。
また、印税の多くが彼の元に入ったが、ジェームズさんはそのほとんどを動物救済基金に寄付をした。その理由は「お金はBobと暮らしていけるぶんだけあれば十分さ。これから人を支えていけるような生き方をしたい」と。
読書メモ
1.お金ではなく、すばらしい仲間、すばらしい友を持つ喜びを実感した。
ジェームズ・ストリートの歩道では、ギターケースのなかにコインが落ちてちゃりんと鳴る音が心地よい響きになっていた。だが、ボブがいないと、その"チャリン"が間遠になるのを感じざるをえなかった。ボブと一緒のときに得る金の半分ほどを稼げるのがやっとだった。
その晩、家に戻りながらある思いが胸にこみあげた。金に関することではない。飢えない程度に稼げればいいし、ボブと暮らしはじめてからずいぶんと金持ちになった。そんなことではなく、すばらしい仲間、すばらしい友を持つ喜びを実感していたのだ。それに、人生を立て直すチャンスを与えられたような気もしていた。
2.ボブが言わんとしていることはなんとなく分かる
いまに至るまで、ボブは本当に信頼できる相棒で、どんなに厳しい状況に置かれてもつねに冷静さを保っていた。寒さのなかでぬれることは大嫌いなはずなのに、車や通行人が通るたびにあげる水しぶきをもろにかぶっても、じっと我慢していた。だが、歩きはじめてから最初に見つけた街角でぼくが立ち止まり、腰をおろそうとすると、ボブはそれを無視して前に進もうとした。ボブが犬のようにリードを引っ張ることはめったにない。けれど、そのときは断固として歩き続けようとした。
「オーケー、ボブ。言いたいことはわかった。ここでは仕事をしたくないんだな」ボブはその場所が気に入らないだけだとぼくは思った。けれども次のの場所でもボブは同じことを繰り返し、ぼくはようやくボブの気持ちを理解した。「家に帰りたいんだな、ボブ」
作中にジェームズさんがボブと会話をするシーンがよくでてくる。ぼくはボブとジェームズさんが会話しているシーンがだいすきだ。ジェームズさんがボブの様子をじっと見守ってそれを汲取り、行動する。そんなシーンがいくつもあるので、ぜひこの本を読む人はじっくりと味わってほしいと思う。