読書めも

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めちゃくちゃ鬱になるノンフィクションを紹介する《兵士は戦場で何を見たのか デイヴィッド・フィンケル》

2003年3月、アメリカは「イラク大量破壊兵器保有」「9.11を引き起こしたテロ組織アルカイダを支援している」「フセイン大統領がクルド人を弾圧し、圧政を行っている」など複数の理由を挙げ、イラクに侵攻し、イラク戦争が始まった。

そもそもこのイラク戦争が始まったのも元をたどれば、1991年に起きた湾岸戦争が原因だ。湾岸戦争の引き金となったのは石油の利権をめぐる争いで、クウェートイラクとの国境にまたがるルマイラ油田の発掘を行ったことが、イラクの大統領だったサダム・フセインの怒りを買った。

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イラククウェートがイラン、がエジプト

 

すぐさまフセイン大統領はイラク軍を率いてクウェートに侵攻。国連イラクに対してただちに撤退するよう呼びかけたが、これを拒否。これに対して、国連は34カ国からなる多国籍軍を編成し、イラクへの侵攻を開始。

多勢に無勢、戦争開始から約2か月でフセイン大統領は敗戦を認め、こうして湾岸戦争終結した。このときの停戦決議で、イラク大量破壊兵器の不保持が義務づけられた。

イラン・イラク戦争が実は湾岸戦争を引き起こした一因だったり、OPEC(石油輸出機構)の決定が石油の値崩れを起こして、イラク経済に打撃を与えたりとか、細かい話はいろいろあるけれど、湾岸戦争の経緯をざっくりいうとこんな感じだ。

 

さて、イラク戦争が始まった経緯に話をもどそう。この湾岸戦争により、イラク大量破壊兵器の不保持が義務づけられ、国連の査察団を毎年受け入れなければならなくなった。

そして、11年後、アメリカ同時多発テロ(9.11)が起こる。アメリカ政府は調査の結果、イラクアルカイダ(9.11の主犯)を支援をしていたとマスコミに発表。

さらに、イラク大量破壊兵器をひそかに作っている疑惑も浮上した(過去に国連の査察団はイラクに調査を何度も妨害された)。我慢の限界を超えたアメリカはついにイラクに侵攻し、イラク戦争が始まった。

 

兵士は戦場で何を見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-7)

兵士は戦場で何を見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-7)

 

 

と、上記で述べたことは今回紹介するこの本のなかで一切でてこない。だが、本書を読むまえに知っておくと、より一層理解が深まるだろう。

兵士は戦場で何を見たのか』を読んだ。本書はイラク戦争の背景を追うものではなく、イラクにいるアメリカ兵が戦争によって狂っていく様を書いたものだ。

著者のデイヴィッド・フィンケルさんはジャーナリストだ。2007年1月、イラクバグダッド東部にあるラスタミヤというだれも行きたがらないアメリカ軍前線基地に向かった。

そして、アメリカ兵と約1年半ほどの期間を共にし、そこで起きた出来事について書き記した。実際の戦地に行き、調査したものだから、戦場の描写がリアルだ。

 

本書の主人公であり、指揮官のカウズラリッチ中佐は直属の部下をひとりも失ったことがない優秀な陸軍将校だ。愛国心が強く、部下からの信頼は厚い生粋の軍人だ。『子どもたちが安心してサッカーができる国にする』という志を胸に秘め、ラスタミヤに赴いた。だが、その志がとうてい実現不可能なものだと知るのはとうぶん先のことであった。

ところで、イラクではIED(即製爆弾)や EFP(自己鍛造弾)と呼ばれる爆弾があちこちに仕掛けられているのを知っているだろうか。これらはハンドメイドで作れるかんたんな爆弾で、遠隔操作もできるし、安価で生産できるので、とてもやっかいなシロモノである。そのくせ発見するには時間と手間がかかる。イラクに派遣されたアメリカ兵の半分以上が IEDやEFPの犠牲になったと言われており、カウズラリッチ中佐の部下もこのIEDやEFPの餌食となった。

彼が率いるのは第16歩兵連隊第2大隊。所属するほとんどの兵士たちはこれが最初の派兵であり、海外に行くのも初めてという者も多く、戦争のベテランは皆無。しかも、大隊の平均年齢は19歳で、最年少の兵士は17歳という若さだった。

当初こそアメリカの勝利を信じて疑わないカウズラリッチ中佐だったが、IEDやEFPによって彼の部下が次々と犠牲になっていくにつれ、彼だけでなく、彼の部下たちも肉体と精神が蝕まれていくことになる...

 

 

鬱ノンフィクションといったらいいだろうか。読んでいて気が滅入る。次々と兵士が死んでいくのもしんどいのだが、IEDやEFPによって手足を失った負傷兵の描写が特に読者の胸を詰まらせる。

四肢だけでなく、片目と耳と鼻を失い、最後は派兵される数日前に結婚した奥さんに看取られた兵士の話はキツかった。戦争が引き起こす現実とはこういうことなのかと突きつけられる。重い読後感が残ったのは言うまでもないだろう。

だが、本書はこれで終わりではない。あくまでも前編なのだ。本書の後編である『帰還兵はなぜ自殺するのか』がすでに発売されている。戦場から帰ってきた兵士がPTSDで苦しむ姿を書いたものだ。

この重い読後感が抜けたら、この後編に挑戦してみようと思う...と言いたいところだが、この読後感はぼくの身体からしばらく抜けないだろう。

 

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)