アメリカ最強の女性部隊はなぜつくられたのか?《アシュリーの戦争 米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる女性部隊の記録》
2016年1月、アメリカの女性兵が歓喜の声を上げた。米軍における女性兵士の配属制限が撤廃されたからだ。
これによって女性兵が地上戦闘に参加することが法的に認められ、ネイビー・シールズやグリーンベレーといった特殊作戦軍の選考も受けることができるようになった。
それまで米軍では女性が就ける職務は法律によって制限されており、1948年ごろは病院または輸送班での任務しか認められていなかった。時代と共に状況はすこしづつ変わっていったが、地上戦闘への女性兵の起用はなかなか認められなかった。
「エッ、軍に女性兵なんているの?」と思った方もいるかもしれない。じつは米軍全体の15%は女性兵で占められており、その数なんと約20万。その多くが看護やタイピスト、機械技術者といった非戦闘員としての職務に従事する。
ところで、女性兵の地上戦闘への参加が今になってなぜ認められるようになったのか。それはこれから紹介する本を読めば、理解することができるだろう。
アシュリーの戦争 ?米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録
- 作者: ゲイル・スマク・レモン,新田享子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 中経出版
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: Kindle版
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『アシュリーの戦争 米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』を読んだ。
本書は、2011年に設立されたCST(文化支援部隊)の女性メンバーを追ったノンフィクションだ。
CSTとは、女性の地上戦闘参加が認められるまえにできた特殊部隊だ。アフガニスタンで、ゲリラをターゲットにした夜間急襲専門のレンジャー部隊に付帯し、レンジャーが強襲に踏み込む寸前までアフガン女性や子供たちから情報を聞き出すこと、それが彼女たちの任務である。必要な場合は、もちろん銃で応戦することもある。
そもそもなぜ女性兵士が戦場の最前線で必要とされるのか。それはアフガニスタン特有の文化がおおきく関係している。
アフガニスタンの山間部では「パルダ」と呼ばれる古い慣習により、女性は公の場から隔離されている。したがって、そこで戦っている外国人兵士がアフガン女性たちを見掛けることはほとんどない。
つまり、男性の外国人兵士がアフガン女性の顔を見てしまった場合には、アフガン人の家族をひどく侮辱してしまったことになる。アフガン女性をボディチェックするなどもってのほかなのだ。男性の外国人兵士がアフガン女性に協力を求めることは、彼女たちだけでなく、彼女たちを守る責任があるアフガンの男たちにも無礼なことで、彼らの社会倫理の根幹を侵すことになる。
日ごろから男性と接していないアフガン女性にとって、男性は未知の存在である。それが異国の兵士で、しかもピストルを持っているとなれば、おっかないどころではないだろう。
だが、それが女性兵であれば、話は変わってくる。女兵士がアフガン女性のそばにいることで、心理的な負担は大幅に減るし、身体検査もすることができる。
また、過去に男性テロリストが女性に変装し、まんまと逃げのびたということや服の下に爆弾や武器を隠していたという事例はすくなくなかった。
国を統治するためには、人心をつかまなければならない。人心をつかむうえで、他文化の侵害行為はあってはならないことだ。文化を侵害せず、統治をするにはどうしても女性兵が必要だったのだ。
本書は、女性目線で書かれたノンフィクションだ。男性目線で書かれた「ホース・ソルジャー」や「イラク米軍脱走兵」といったノンフィクションは多いが、女性目線で軍の内部を描いたものはすくない。
本書を読んでいると、軍隊はやっぱり男世界だと感じる瞬間がいくつもある。前述した通り、女性が地上戦闘に正式に参加できるようになったのは今年からだ。
だから、女性兵は戦場の最前線で戦ったことがある男性兵から見下されることが多いという。「おまえは戦場を知らないでしょ?」というように。
戦いの最前線に行きたくても、法律がそれを許さない。彼女たちのジレンマや軍内部の事情がたっぷりと書かれている。
しかし、彼女たちは男性兵に対して能力的に劣っているわけではない。実際、CSTの選抜メンバーは、男性兵が耐えられないような肉体的にハードな試験をくぐりぬけた。
2001年に9.11が起き、アフガニスタン紛争が勃発した。当初数ヶ月でタリバン政権を打倒し、楽観ムードがアメリカに漂ったが、15年経ったいまなおこの紛争の終わりは見えない。グーグルで「アフガニスタン ニュース」と検索すると、毎日のように死者がでていることがわかる。まさに泥沼だ。
この泥沼を抜けるには、CSTに従事するような強くて優秀な女性兵がひとりでも多く必要なのかもしれない。
アシュリーの戦争 -米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録
- 作者: ゲイル・スマク・レモン,新田享子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/06/29
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読書めも
・湾岸戦争で4万人を超える女性軍人が砂漠の盾作戦や砂漠の嵐作戦のために派遣され、活躍。そこから女性のチャンスが広がった。
・女性軍人の多くが家族に軍人出身者がいる。兄や父の姿を見て、軍に入ろうとする。
・女性が地上戦闘に参加できない理由のひとつに、女性が戦火の中、大男を担ぎ出せるのか?という点。味方兵が負傷したら、助けるのが掟。
・通訳の稀少性。アフガニスタンの言語を話せて、相手から重要な情報を引き出し、かつレンジャーたちに同行できる体力をもつ女性というのはなかなかいない。
・ベトナム戦争時代、テロリストを追うために大量の軍犬が戦地に送られたが、その多くがアメリカ軍と帰ってくることはなかった。米軍が撤退するときに、安楽死されたり、ベトナムに置き去りにされた。アフガン・イラク戦争では、兵士が希望すれば、連れて帰ることができるようになった。