読書めも

読んだ本の感想をぼちぼち書いてます

高校時代すきなひとの似顔絵をノートにコソコソと書いていた黒歴史があるけど、紅白に出場できたでござる《芸人前夜 中田敦彦》

natalie.mu

「PERFECT HUMAN」で一躍有名になったRADIO FISHが今年の紅白歌合戦に出場するらしい。

お笑い芸人が紅白に出場するのはそんなにめずらしいことではない。

とんねるずダウンタウン浜田雅功をはじめ、藤井隆、ガレッジセールのゴリ、はなわテツandトモ波田陽区も過去に出場している。
 

 

RADIOFISHが紅白に出場できたのは「PERFECT HUMAN」がヒットしたからだろう。「PERFECT HUMAN」がリリースされたのは去年の年末なのだが、そのときまさか紅白に出場できるなんて本人たちは思っていなかったはずだ。

今でこそ3000万再生を突破した「PERFECT HUMAN」だが、リリース直後に反響があったわけではない。地道に活動をつづけ、フジテレビ系の番組『ENGEIグランドスラム』に出演したことをきっかけに爆発的にヒットした。

ちなみに「PERFECT HUMAN」の歌詞は藤森さんが書いているのだが、この曲をつくるきっかけとなったのは、相方の中田さんからあるひとつのオーダーが届いたからだ。

そのオーダーは「とにかくおれを褒め称えろ、そしてPERFECT HUMANだけを言わせてくれ」というものだった。

そんなむちゃくちゃなオーダーを受け、藤森さんは1日で「PERFECT HUMAN」の歌詞を書き上げた。

3000万再生を突破させた歌詞を一日で書き上げるところに、藤森さんのアーティストとしての才能を感じる。

 

これで4度目のブレイクといわれているオリエンタルラジオ

一回目は武勇伝、二回目はチャラ男、三回目はラッスンゴレライの完コピ。このままアーティスト路線で突っ走るのか、それともまたべつの策を講じるのか気になるところではある。

 

芸人前夜 (ヨシモトブックス)

芸人前夜 (ヨシモトブックス)

 

 

前置きが長くなってしまったが(前置きにすらなっていない)、中田敦彦さんが書いた「芸人前夜」を読んだ。

本書は中田さんの自伝的小説であり、彼が生まれてからNSC(養成所)を卒業する直前までを描いたものだ。

本書の見どころは中田さんが青臭くてカッコ悪い、これに尽きるだろう。

武勇伝で藤森さんが言う「あっちゃんカッコイイ〜」ではなく、「あっちゃん、カッコ悪い〜」だ。頭脳明晰でスターのオーラを身にまとった中田さんのダサいエピソードが山ほどでてくる。

 

【中田さんのダサいエピソード】

・高校時代に想いを寄せた相手の似顔絵をひたすらノートに書く

・その子の持ち物を観察してデータをノートにまとめる

・初デートでデート相手と1対1の野球を延々と繰り返す

・寝取られた彼女の男をなぐって手の骨が折れる

・その男にケガの心配をされる

 

中田さん自身もあとがきでこう語っている。

 

実を言うと、この小説まがいのものは連載が終わってから、しばらく眠っていた。連載完結さあ出版となったところで一度その話がストップしたのだ。ストップしたというより、ぼくがストップさせた。何を隠そう「恥ずかしかった」のだ。この自叙伝まがいのお話が。書いたうえで申し訳ないが恥ずかしくなってしまったのだ。あまりにも自分の青い時期の青さがきつすぎて。世にそれを出すことはもう恥辱の散布でしかないと感じたのだ。

 

本人も認めるほどの恥ずかしいエピソードがたくさん詰まっているのだが、もちろんそれだけではない。

オリエンタルラジオをブレイクに導いた武勇伝が生まれるきっかけや相方の藤森さんとの出会い、NSC在学中にもかかわらずM-1準決勝まで行ったエピソードやテレビ出演が決まっていた話ーー

そのなかでも武勇伝のネタが生まれ、どんどん改良されていく様子が描かれているのはすごくよかった。

「あぁ人気が出るネタってこういうふうに作られていったんだぁ」と思った。

 

「なあ、登場するまでただ歩くだけだったら普通だから、変な歩き方で出て行こうぜ」「なあ、ネタの終わりに次回予告つけようぜ」「なあ、歌舞伎っぽいことしたいなあ。歌舞伎みたいに見得切ろうぜ」「カッキーンっていう擬音、ヒーローっぽくていいよな。使いたい。」

「今日大学の帰り道にさ、いい歌考えたんだよ。さわやかなメロディーでさ、どうしようもない歌詞つけてさ」「なんかもうラップみたいな感じもいいかもな」「踊ろうぜ。これ、変な動きだろ。でも真似しやすいだろ。どう?」

 

かれらの原点ともいえるNSCでの出来事がありありと書かれている。「かれらはこうやってスターへの道を駆け上がっていったんだなぁ」と感じることができるだろう。

お笑いが好きなひとにプレゼントしたい一冊だった。

さらば、野球界のジャイアン〜38歳で二冠王に輝いた男〜《さらば、プロ野球〜ジャイアンの27年 山﨑武司》

剛田武、通称『ジャイアン

のび太のクラスメイトであり、ドラえもんの悪役的ポジションに座るキャラクターだ。「お〜れはジャイア〜ン、ガーキ大将♪」ではじまるお馴染みのBGMは彼のテーマソングだ。

ちなみにあのBGMは3番まで作られており、CDも実際に販売されている。BGMのタイトルは『おれはジャイアンさまだ!』

 

おれはジャイアンさまだ!

おれはジャイアンさまだ!

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  • J-Pop
  • ¥150

www.utamap.com

野球界にもそんなジャイアンと呼ばれた人物がいる。

山﨑武司。中日→オリックス楽天→中日と経て、2013年に現役を引退。こうして27年間の現役生活に別れを告げた。

ところで、なぜ彼がジャイアンと呼ばれているのか。それは彼にまつわるエピソードを知れば、おのずと分かるだろう。

 

さらば、プロ野球 ~ジャイアンの27年

さらば、プロ野球 ~ジャイアンの27年

 

 

山崎武司ジャイアンエピソード】

・鉄拳制裁で恐れられていた星野仙一監督に対して「おっさん、ボケ!俺を使えば打てるんじゃ!!」と暴言を吐く

・2軍戦で第一打席だけ打って、試合序盤に許可なく自宅へ帰る

・「こんなチームでやってられんわ」と吐き捨て、監督室のドアをバットで殴る

・球団社長に「これ以上中日にいたら、傷害事件を起こしてしまうかもしれない」と言って、オリックスに移籍

オリックス時代、監督に暴言を吐いてこれまた自宅へ帰る

 

ちなみに、ぼくはひとつ目の出来事をリアルタイムで見ていた。あれは、1999年9月26日、ナゴヤドームで行われた阪神戦のことだ。

首位を走る中日はこの阪神戦に勝利し、優勝へのマジック5としたかった。試合は2-1と中日がリードし、9回表にクローザーの宣銅烈を投入。

勝利は確実かと思われたが、阪神の助っ人外国人マーク・ジョンソンが3ランホームランを放ち、2-4となり、敗北ムードに。

このときのことをはっきりと覚えている。ぼくは内野席で観戦していたのだが、このホームランの後にたくさんの中日ファンが席を立ち、うなだれるように帰っていった。まだ9回の裏に中日の攻撃があるにもかかわらずだ。

しかし、その裏に山﨑武司がスリーランホームランを放ち、まさかのサヨナラ勝ち。名古屋ドームは一気に中日ファンの歓声で包まれた。

 

実はこの時、僕は猛烈に苛立っていました。調子は悪くないのにスタメンから外れる日が目立つようになり、怒りの矛先はいつしか星野監督へと向けられていったのです。
相手ピッチャーの福原忍から豪快なホームランをレフトスタンドに叩き込んだ僕は、ダイヤモンドを一周する前にベンチを力強く指さし、大声でこう叫びました。


「おっさんボケ!俺を使えば打てるんじゃ!!」

 

まあ傍から見ていれば、笑える話なんだけど、監督からすればめんどくさい選手だわなぁという感じ。

 

たしかふたつ目のエピソードをどこかのバラエティ番組で話していたんだけど、試合を放棄したあとに建築中の自宅に帰って、大工さんと談笑。「大工さんが家をつくる過程を毎日見てたんで、ぼく自身が家つくれるくらい詳しくなりましたよ」って言っていたのには笑った。

そんな自由きままに野球生活を送っていたのにもかかわらず、「なんで27年も現役をつづけることができたの?」と思うかもしれない。

答えはかんたんで、圧倒的な才能の持ち主だったからだ。

バッティングの基本のひとつに、相手ピッチャーの球種を読むというものがある。これはほとんどのひとが知っていることで、基礎中の基礎のことなんだけど、山崎さんはまったく知らなかった。

読んでいてびっくりしたんだけど、楽天にくるまでの19年間、来た球を打つというスタンスでバッティングに取り組んでいたらしい。つまり、変化球だろうがストレートだろうと関係なく、とりあえず打っていたわけ。

まさに本能で野球をやっていたのだろう。そのスタイルで96年にホームラン王を獲得したのだから、天才としか言いようがない。

野球界のジャイアンは引退した。現在、評論家として日本各地で講演を行っているらしい。しかし、いつか野球界に帰ってくるだろう。帰ってきたあかつきには野球界で存分に暴れまわってもらいたい。

サクリファイス 近藤史恵

ロードレース

一見個人競技に思えるこのスポーツ、じつは団体競技だ。たったひとりのエースを勝たせるために、数人のアシストと呼ばれる選手がエースの風よけとなる。こうすることで空気抵抗が大きく軽減され、エースは半分以下の力で走ることができる。

アシストは勝負どころまでいかにエースの力を温存させるかが重要で、自己犠牲が伴う役割である。どれだけアシストとしていい仕事をしても、記録に残るのはエースだけ。自分がいい記録を残したいと思っても、アシストはエースのためにすべてを捧げなければならない。

勝つことを期待されるエースとただエースのために働くことを期待されるアシスト。残酷だが、アシストはエースに勝利を託すしかない。

 

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)

 

 

本書の主人公である白石誓は、チーム・オッジに所属するロードレーサーだ。峠を得意とするクライマーであり、チーム・オッジにかかせない優秀なアシストだ。勝利に対して執着心がなく、与えられた仕事を粛々とこなす彼にとって、まさに適したポジションと言えるだろう。

物語序盤に白石は、チーム・オッジのエースであり日本を代表する選手でもある石尾豪が過去に優秀な選手を潰したという噂を耳にする。ミステリー特有の不穏な空気がここから漂いはじめる。ライバルとの駆け引き、かつての恋人との再会、チーム内に漂う不穏な空気ーー

扱う題材はロードレースだが、本書のジャンルはミステリー。「えっ?スポーツなのにミステリーってどういうこと??」と思うかもしれない。しかし、読み進めることできっと納得する。

そして、読み終えたあなたは、主人公が最後に発する言葉にきっと共感するだろう。「勝利は、ひとりだけのものじゃないんだ」という言葉にね。

 

サクリファイス 1 (ヤングチャンピオンコミックス)

サクリファイス 1 (ヤングチャンピオンコミックス)